「やきもの」に託す記憶と想い
- 酒井 智也さん/陶作家
- 1989年愛知県生まれ。2015年名古屋芸術大学(陶芸専攻)卒業。19年多治見市陶磁器意匠研究所修了。受賞歴に、20年「台湾国際陶磁ビエンナーレ」入選、21年「第12回国際陶磁器展美濃」銀賞など他多数。国内外にて個展、グループ展を開催。現在は愛知県瀬戸市にて活動中。主に電動ロクロを使った作品制作を行っている。 https://sakaitomoya.amebaownd.com
記憶と形を、遠い未来へ
「やきもの」は1万年以上残せる稀有(けう)な記憶媒体。私は自己、他者、時代の記憶をテーマに制作してきました。大切なのは、記憶と共にある「想い」を、粘土とロクロ技法を通して抽象的なイメージとして具現化すること。作品は私が生きた証しであり、1万年先の人々に残したい時代の記憶です。
本当にやりたかったことは
私は、幼少期から工作や絵を描くことが大好きで、小学校から高校まで絵画教室にも通いました。
ただ、美術を仕事にしようとは思いませんでした。世の中の風潮として安定を望むことが正解のように感じていたからだと思います。大学には進学せず、高校卒業後は自動車部品メーカーに就職し、生産ラインで3年間働きました。出来上がる部品が作品のようにも思えて、やりがいがありました。
しかし、この時期に友人を亡くしたことで、今まで遠い存在に感じていた「死」がとても身近になり、死への恐怖を覚えるようになりました。そして、本当にやりたいことは何かを考えるように。
職場では後輩もでき、仕事を伝える楽しさを知ったため、人に何かを伝える仕事がしたいと考えるようになりました。両親が教員だったこともあり、美術教員を目指して名古屋芸術大学に入学しました。
陶芸に出合う
絵画教室に通っていた頃から、絵に対して何となく限界を感じていました。陶芸であれば、自然(火)の力を借りることで、自分の限界を打破できるのではないかと考え、大学では陶芸を専攻しました。陶芸を学ぶ中で、電動ロクロで作品を作ったときに「これだ」と確信したのを覚えています。
自動車部品メーカーでは、機械旋盤を使って回転体形状の部品を作り、その造形に美を感じていました。粘土とロクロを使った制作は、直接素材に触れ、即興的に形が生まれていきます。美しいと感じていた回転体の造形美に加え、自分の感情までもが手を通して入り込む感覚に感動しました。そこから現在に至るまでの約10年間、粘土とロクロでの制作は続いています。
大学卒業後は、目標でもあった美術教員として特別支援学校で働きました。生徒たちの素直な創作活動に触れながら楽しく仕事をしました。
しかし、陶芸の魅力が忘れられず、2年後には退職し、作家を目指して多治見市陶磁器意匠研究所で2年間学び直しました。現在は、焼き物の産地でもある愛知県瀬戸市で活動しています。
「生」を実感する作品を
私の作品は、過去に見てきた景色、ニュース、アニメ、映画、さまざまなイメージが多層的に入り込んでおり、自分自身の一部を切り取ったようなものでもあります。それらを世に提示し、認めてもらうことが生きている実感となります。
多くの災害、事故、戦争が起こる世の中で、死と向き合いつつ「生」を大切にしていくために、これからも作品を作り続けていきたいです。
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