お雑煮を求めて全国各地を巡る
- 粕谷 浩子さん/お雑煮研究家
- 1972年生まれ、香川県出身。株式会社お雑煮やさん代表取締役。お雑煮の魅力に取りつかれ、1〜2年ごとに全国を移り住みながらお雑煮調査をしている。現在は、滋賀県長浜市在住。来年は東北のどこかに住んでいる予定。著書に『お雑煮マニアックス』(プレジデント社)。11月に新刊『日本全国お雑煮レシピ』(池田書店)を発売。
http://www.kasuyahiroko.com
お雑煮のバリエーション
「すみませ〜ん!お雑煮の調査をしているんですが、正月、どんなお雑煮を食べていますか?」やぶから棒にそう声を掛け、気が付いたら、1〜2年ごとに住まいを移しながら全国でお雑煮ナンパを繰り返す生活を送るようになってしまっていた。
日本人なら誰もが知っている「お雑煮」という料理。なのに、同じ「お雑煮」という言葉を使いながら、ひとりひとりの頭の中に思い描いているイメージがこれほど異なる料理も他にないのではないだろうか?問いかければ大抵、「雑煮?うちのは本当に普通なんだけど…」という枕詞から回答が始まる。私は、うふふふ、と内心ほくそえみながら話を伺う。
皆さんの語りだす「普通」の話は、バリエーション豊かで聞き飽きることがない。例えば、「アナゴ出汁で、具材はアナゴの白焼き、里芋、大根などの根菜類。餅は煮ます」、「豚汁みたいな普通の汁の中に切り餅を焼いて入れています。具材?豚肉にゴボウ、ニンジン、たけのこ、大根、かまぼこかな」、「サバを素焼きして身をほぐしたものに、赤巻(富山名産のかまぼこ)や大根、ニンジン、里芋などを入れて、大鍋にたくさん作っています」…と、こんな具合。
地域性や家庭の特徴
お雑煮は、正月というとびきりのハレの日の家庭料理。かつては、地域の人たちと暮れに餅つきをし、そして、その餅を使って正月は各家庭で雑煮をこしらえた。
今も年に1回のことなので、雑煮の作り方もお母さんやお姑さんに聞きつつ緩やかに家庭内で伝承されてきている。年に1回の家庭料理だからこそ、これほどまでに多様なお雑煮が今に生きているのだと思われる。
さらに、地域性がありつつも、家庭料理ゆえに各家庭でそれぞれ微妙に異なる形ができあがるところにも、個人的には面白みを感じる。出身の異なる夫婦の間で、夫婦の力関係で雑煮が決まったり、ハイブリッド化もあったり、雑煮話を聞いていると、家族の情景も目に浮かんでくるのだ。
高齢のおばあちゃんにお話を伺っていると、うんちくも加わってくる。使われる具材にまつわる「縁起」など、地域に存在する物語が始まるのだ。
例えば、「昔は、雑煮を作るための焚き付けには必ず『豆ガラ』を使ったよ。まめまめしく1年が過ごせるようにね」、「切り昆布と切りスルメを必ず添えるのは、『よろ昆布(よろこぶ)、けんかスルメー(するまい)』だから」、なんて具合に。
お雑煮で知る食文化
各地のお雑煮話を聞いていると、日本各地の多様な食文化を肌身で感じることができる。みんなのお雑煮を聞き取り、残していく活動を通して、日本の食を楽しむ仲間づくりをしていきたい。
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