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2022年3月掲載

日本各地を彩る豆腐を追いかけて

工藤 詩織さん/豆腐マイスター

工藤 詩織さん/豆腐マイスター
群馬県出身。幼少期から豆中心の食生活を送る。大学院で日本語教育を勉強する過程で「食文化としての豆腐」の魅力に目覚め、22歳で豆腐マイスターの資格を取得。執筆活動・メディア出演・イベント・ワークショップを通じて全国各地の豆腐の魅力や文化を伝える。TBS系列『マツコの知らない世界』などに出演。著書に『まいにち豆腐レシピ』(池田書店)。https://www.shiorikudo.com

偏食から始まった豆腐生活

私は豆腐にまつわる執筆活動やメディア出演、ワークショップなどを通じて、日本各地の豆腐の多様な食文化や職人の豆腐作りを発信しています。

幼少期はいわゆる偏食家で、果物や牛乳、中でも、誰もが当たり前に口にする白米が得意ではなく、食生活の中心となっていたのは「大豆食品」でした。その中でも豆腐は毎日欠かせない主食のような存在となりました。みずみずしく滑らかで、大豆そのものの優しい風味はどんなおかずにでも合わせやすかったのです。なにより調理をせず、そのままでも味わえるのは子どもの自分には好都合でした。早起きの父は近所の豆腐店へ絞りたての豆乳を買いに出かけ、私の目覚めの一杯を用意してくれるようになりました。

しかしある日、「豆腐屋さんやめちゃうんだって」と、父から豆腐店の廃業を知らされました。当たり前に口にしていたものが突然なくなる、ということをそれまで経験したことのなかった私にとっては、うまく現実として受け止めきれませんでした。

廃業が進む豆腐店の現状

近所にあった豆腐店がいつのまにか廃業していた、という経験を持つ方は、私以外にも多くいらっしゃると思います。

1960(昭和35)年、全国におよそ5万軒あった豆腐製造者数はその多くが家族経営で、製造の近代化・機械化や流通網の発達と並行して、高齢化や後継者不足によって廃業を余儀なくされました。近年も年間にして約500軒のペースで減少し続け、2020(令和2)年のデータでは5000軒程度と、10分の1近くになりました。

ピーク時の5万軒とは、現代のコンビニエンスストアの軒数に相当するようです。そう置き換えれば、私たちにとっての豆腐店がいかに身近で当たり前の存在だったのかが想像できると思います。

日本の豆腐は“色とりどり”

こういった厳しい状況下でも、親子代々一途に豆腐を作り続ける職人の姿や、新規開業に挑む豆腐店の姿にもスポットライトが当たればと思い、取材活動を続けてきました。国内、時には海外へ足を運び、製造現場を見学したり、現地のスーパーや市場で豆腐の硬さや大きさなどの地域性を調査するようになりました。

「白くて四角い豆腐に地域性があるの?」と思われるかもしれませんが、「全国ご当地豆腐マップ」ができてしまうほど、各地には色とりどりの豆腐があります。沖縄県の「島豆腐」はその代表例で、富山県や石川県の山間部では冬場の貴重なタンパク源でもある「固豆腐(堅豆腐)」、鳥取県の中東部では貴重な魚を節約するために江戸時代に編み出された「とうふちくわ」が存在します。さらに各地には、豆腐を味噌や梅酢に漬け込んだり、加熱や薫製、凍らせたりと、保存性に長けた加工品も残っています。

冷蔵庫がなくとも豆腐をより長くおいしく楽しめるようにと、その地の気候や風土に合わせて生み出された豆腐たちは先人の知恵の結晶です。生涯で誰もが口にするような当たり前にある食材だからこそ、これからもその奥深さを発信し続けていきたいです。

 
  • 京都府の湯豆腐に使われる柔らかなソフト木綿豆腐

    京都府の湯豆腐に使われる柔らかなソフト木綿豆腐

  • 鳥取県中東部に見られる独特の加工食品・とうふちくわ

    鳥取県中東部に見られる独特の加工食品・とうふちくわ

  • 高知県津野山地区に伝わる豆腐の梅酢漬け

    高知県津野山地区に伝わる豆腐の梅酢漬け

(無断転載禁ず)

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