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2022年1月掲載

遊び心をテーマに木の可能性を追求

熊野 聡さん/木工作家・熊野洞 代表取締役

熊野 聡さん/木工作家・熊野洞 代表取締役
仙台市生まれ。1977年東北工業大学工業意匠学科卒業後、千葉大学工学部工業意匠学科専攻生としておもちゃや集団遊具などを研究。「遊び」をライフワークとする。2000年みやぎものづくり大賞 グランプリ受賞。19年丹波の森ウッドクラフト展グランプリ(文部科学大臣賞)受賞など、他多数受賞。文化庁 「次代を担う子どもの文化芸術体験事業」にも参加。https://www.kumanodo.com

熊のようなひげをたくわえ、シルクハットを被り、丸いメガネをかけ、手回しオルガンを演奏する私。大きなトランクから取り出したマリオネットにバイオリンを演奏させたり、バルーンアートでネズミやプードルなどを作ったり、子どもたちや見ている方々を笑顔にすることに生きがいを感じる66歳…。

私はみんなを楽しませることが大好きなストリートパフォーマー。しかし本業はオルゴールや木のバッグの制作者。宮城県の伝統的な家具「仙台箪笥(たんす)」を作る家の長男として生まれました。

37年ほど前、ドイツでオルゴールに出合い大きな衝撃を受けました。箪笥屋の跡を継ぐはずだった私ですが、それ以来、音を追求したオルゴールの研究に没頭しました。当時の日本には、大きなオルゴールを作る情報や技術がなかったため、ほとんどが独学でした。

日本古来の継手の技術を生かし、0.05ミリほどの精度で組み立てたオルゴールの箱は楽器と同じ構造です。材質や板の厚み、箱の大きさによって音色や音量が変わってきます。木材の乾燥状態や塗装によっても微妙な違いが生まれてくるのです。試行錯誤を繰り返すうちにオルゴールの音色も良くなり、今では音の違いを聴き比べるオルゴールコンサートを開催するまでになりました。

また、曲面を削り出す技術を生かし、木のバッグも作るようになりました。留め具などのパーツには、小さな物を精巧に作るオルゴールの技術が役に立ちました。軽さと強度を兼ね備えた木のバッグは、和服にも洋服にもおしゃれに合わせることができます。

2011年に東日本大震災を経験し、「誰もが笑顔になるようなオルゴールを作りたい」という思いがきっかけで、ケーキ型のオルゴールの制作に着手しました。中央のいちごを引けば優しい音楽が流れます。フルーツの周りに飾られているクリームやチョコレートにはおがくずやかんなくずを再利用し、色鮮やかなジュレも木材から抽出した染料を使用しています。

10年以上の歳月をかけ、ケーキのオルゴールは本物と間違えるほどになりました。着色をせず、自然の木の色だけで作っていることに驚く人が多いのです。

木の可能性は無限大です。みんなを楽しませたいという思いが私の創作意欲をかき立て、感謝のお便りやメールが次なる仕事の原動力になっています。

オルゴールやパフォーマンスを通じて、未来を担う子どもたちに伝えたいことがあります。

「自分の好きな事を諦めずに続けていけば、きっと人生が楽しくなりますよ」。

 
  • 音を楽しむ時はいちごを引きます

    音を楽しむ時はいちごを引きます

  • クリームもスポンジも木材で作ったケーキ型オルゴール

    クリームもスポンジも木材で作ったケーキ型オルゴール

  • バイオリンを制作するシカモア材で作った木のバッグ

    バイオリンを制作するシカモア材で作った木のバッグ

  • オリンピック金メダリストの羽生結弦選手に贈呈するオルゴールを制作

    オリンピック金メダリストの羽生結弦選手に贈呈するオルゴールを制作

  • 手回しオルガンを演奏する熊野さん

    手回しオルガンを演奏する熊野さん

(無断転載禁ず)

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