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2021年11月掲載

持続可能なタンパク質としての食用コオロギ

渡邉 崇人さん/グリラス 代表取締役

渡邉 崇人さん/グリラス 代表取締役
専門は昆虫の発生・再生メカニズム。コオロギの大規模生産、循環エコシステムの開発を行う。徳島大学大学院社会産業理工学研究部・助教。2019年5月に株式会社グリラスを設立し、完全国内生産の食用コオロギを使用した食品原料および、自社ブランド製品の販売を行っている。20年3月には「コオロギせんべい」を良品計画と協業で開発した。
https://gryllus.jp

「世界のタンパク質不足をコオロギで解決する」をキャッチコピーに、徳島大学でコオロギを食用利用する研究をスタートさせたのが2016年。それまでは、2006年に学生として研究室に配属されてからずっと、「生き物はどのように形作られるのか?」を明らかにする基礎研究を続けてきました。そこから一念発起してコオロギを社会の役に立てるべく応用研究を進めることを決意し、現在では大学発ベンチャー企業も設立してプロジェクトを推進しています。

2006年からの基礎研究では、どのような遺伝子が働いて生き物が形作られるのか?という疑問に対して研究を行ってきました。

このような研究を行う時、それぞれの研究者はモデル生物として研究対象を選びます。モデル生物を選ぶ基準としては、飼育の容易さや実験を行う際の取り扱いやすさなどさまざまありますが、私が入った研究室では「フタホシコオロギ」をモデル生物として研究を行っていました。

充実した研究生活を過ごしていましたが、その中で「自分の研究で直接社会の役に立ちたい」という思いを抱えていました。基礎研究も大変重要ではあるものの、研究成果を社会に役立てるという点においては、なかなか実感を得られなかったのです。

そこで、2016年から大学教員として正式に雇用されたことをきっかけに、「直接社会の役に立つ研究」を始めようと決意し、応用研究を始めることにしました。とはいえ、これまでコオロギの研究を続けてきた知識や経験を生かすのは、やはりコオロギを活用する研究です。

いろいろと情報収集を行ったところ、2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が「昆虫(コオロギ)がタンパク質不足に貢献する」という報告書を出し、世界が大きく動き出していました。コオロギで役に立つにはこれしかない!と考え、そこからコオロギをタンパク質源として活用するための研究を開始しました。

昆虫がタンパク質源として優れている所を簡単に紹介させてもらうと、既存の畜産と比較して、(1)同じタンパク質を生産するために必要な餌の量が少ない、(2)水の必要量が少ない、(3)温室効果ガスの排出が少ない、という利点があります。昆虫の中でもコオロギが優れている点として、(1)飼育が容易である、(2)成長が早い、(3)雑食性で食品ロスを活用して飼育できる、などが挙げられ、世界的にコオロギは新たなタンパク質として認知され始めています。

現在進めている研究としては、コオロギを食用利用する産業化を推進するために、コオロギの自動飼育システムの開発、有用品種を作出するための品種改良、食品ロスだけでの飼育技術の開発等を進めています。また、研究を進める過程で、実際に日本においても産業化を進めるために、2019年に大学発ベンチャーとして株式会社グリラスを設立し、日々事業を進めております。

持続可能な発展のためには、環境に優しく効率の良いタンパク質の生産方法が必要不可欠です。もちろん、「コオロギを食用に利用する」ということへの心理的な抵抗感があることは承知しています。しかしながら、この抵抗感さえ払拭(ふっしょく)できれば、コオロギは食料資源として大変に利用価値の高い有用な生物です。まずは、この日本から食用コオロギを一般化させ、生活の中で当たり前になっていくようにプロジェクトを進めていきたいと考えております。

将来的には日本を飛び出し、飢餓に苦しむ地域へ我々のコオロギタンパク質を届けて、すべての人に健康で幸せな生活を届けられるようにしたいと考えております。

  • グリラスで飼育されている白眼のフタホシコオロギ

    グリラスで飼育されている白眼のフタホシコオロギ

  • コオロギパウダー

    コオロギパウダー

  • コオロギの飼育現場

    コオロギの飼育現場

  • 乾燥させたコオロギ

    乾燥させたコオロギ

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