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ピラティスに出合ったのは、今から16年ほど前のことです。それまでは物理化学者として都内で充実した日々を送っていました。

結婚を機に静岡県沼津市に移住。環境の変化に戸惑う中、妊娠が発覚すると、キッチンに水を取りに行くことさえできないほど壮絶な体調不良に襲われました。妊娠中に多量の薬を服用し、出産1週間前になると「もっと手術設備の整った病院に移ってほしい」と担当医に言われ、直前で病院を変えました。子どもは無事に産まれたけれど、体調は変わりません。出産したら治るだろうという最後の望みも断たれて、文字通り絶望。そんな中、わらをもつかむ思いで自宅で始めたのが、たまたま見つけたピラティスのDVDでした。

そこには、「30レッスンで新しい体に生まれ変わる」という、創始者ジョセフ・ピラティスの言葉がありました。「でも、今の私は普通じゃない。人の3倍はやろう」と決めて、90日間、1日も休まずに続けました。そうしたら、ちょうど90日がたった頃、約1年半ぶりに精神安定剤を飲まずに眠ることができたのです。それどころか、うれしい、楽しい、出かけたいなど、ポジティブな思考のかけらが、頭の片隅をかすめたのです。その瞬間、なんとも言えない喜びと、人生を救われた感動から、「この素晴らしさを伝える人になろう」と決意しました。

このメソッドの深さを学ぶため、育児をしながら、何度もアメリカへ渡ることになりました。英語もできず、金銭的にもかなりの負担がありましたが、「本物のピラティスの価値を日本へ伝えたい」の一心で、人生全てを懸ける勢いで取り組み続け、気がついたら16年が過ぎていました。

本場でやればやるほど、「本来の自分を取り戻すこと。それがピラティスメソッドの第一歩」だと確信しました。体や心をあるべき状態にリセットした上で、自分らしい人生を生きるために必要な強さとしなやかさを身につけるという、単なるトレーニングとは異なる効果を体感しました。実際に、まるで湧き水のように活力がみなぎってくるのを感じます。体だけではなく同時に心も豊かになり、たとえば人間関係が良くなって日常がさらに楽しくなる。気づけば本来の自分らしさも手に入れている。それがピラティスのすごいところです。

こうして10年以上が過ぎた頃、ついに今ではピラティスメソッドの創始者直系の弟子となり、アジアで初めて、ピラティスという遺産といわれる教育プログラムを指導しています。また、世界を代表するピラティスの継承者として国際的に活躍しています。

今はコロナ禍となり、時代の流れに焦りを感じたこともありました。ですが、本物のピラティスで手に入れたのは、心と体の強さとしなやかさです。確かに今は、社会や生活が変わってしまったけれど、私には人を励ます活力があるし、新しくチャレンジするパワーもあります。もし私が本来の自分を見失っていたならば、コロナでスタジオが閉鎖に追い込まれて収入が減ったと嘆くばかりだったかもしれません。生きているといろんな障害物が現れます。ただ、ピラティスをやっていると、心と体がひとつになって、きっと乗り越えられる、という自信が生まれてきます。私たちを悩ませる不安や恐れは、自分の頭がつくり出すものです。どんな状況でも自分らしくいられること。これらは全て、ピラティスを通して育んできたものです。

正式なピラティスメソッドの継承者となった今、この真髄を次の世代へ伝えていくための指導者の育成に情熱を注いでいます。ピラティスを通して、世界の人々が健全な心と体になり、世界平和への一端を担うことが、私の使命だと感じています。