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2021年6月掲載

ハーモニカは相棒

寺澤 ひろみさん/ハーモニカ奏者

寺澤 ひろみさん/ハーモニカ奏者
東京都出身。複音ハーモニカ奏者だった父の影響で明治大学ハーモニカソサエティーに入部。独学で複音ハーモニカを習得する。2001年ドイツで行われた「ワールド・ハーモニカ・フェスティバル2001」複音ハーモニカ独奏部門に初出場し優勝。日本ハーモニカ芸術協会師範、全日本ハーモニカ連盟常任理事。2018年より「F.I.H.JAPANハーモニカコンテスト」にて史上初の女性審査員を務める。 http://www.terasawahiromi.com

今年10月で演奏家生活20周年を迎えます。まさかこんなに長く、自分がハーモニカプレーヤーとして生きるとは、思ってもいませんでした。

私がハーモニカを吹くようになったのは、同じくハーモニカ奏者であった父の急逝がきっかけです。

父は中学1年生から、日本の複音ハーモニカの第一人者でもあった、故・佐藤秀廊先生に師事しており、私が物心ついた頃はすでにハーモニカ奏者・指導者として忙しくしていました。

父の同僚やお弟子さんたちが大勢出入りする環境で育ったのですが、両親は私に「ハーモニカをおやりなさい」などと強制することはありませんでした。2人とも、自分の目標を自分で見つけて努力できるタイプでしたので、私に対しても、強制しなくてもいつか自分で好きなことを見つける、と思っていたようです。

ですから、私が「親子2代でハーモニカを吹きます」と申しますと、皆さんに「英才教育ね」と言われるのですが、そんなことはなくて、小学校入学の頃に「ハーモニカ吹きの娘がハーモニカを吹けないんじゃあ面目ない」という父に、少し手ほどきを受けた程度でした。

おかげさまで家族全員が音楽好きでしたから、毎日のようにあらゆる音楽が鳴っている家庭で、父も酔っ払って気分が良くなると、いろいろな音楽の聴き方や自分のこだわりを、酔いに任せて家族相手にとうとうと喋ることがよくありました。そんな環境で育ったことが、今の私の礎になっています。

今年の3月20日に活動20周年の記念コンサートを開催しました。コロナ禍で客席稼働は50%でしたが、おかげさまで満席に近いお客さまがお越しくださいました。

ハーモニカ奏者として活動を始めてからずっと、亡き父の背中を追いかけてきたつもりが、今回のコンサートで、もうとっくに全く違う個性だったということに気が付きました。20歳といえば成人式。私もちょっとは一人前になれたでしょうか。

ハーモニカは、少し前までは「懐かしい楽器」でした。残念ながら40年ほど前に学習指導要領から外されたため、今は小学校の音楽鑑賞教室に伺っても、校長先生やベテランの先生しか「懐かしい」とおっしゃらなくなりましたけれど。

そのおかげか若い人には、ハーモニカが新しく珍しい楽器として受け入れられています。小さい頃からグローバルな経験をしている世代の柔軟な発想で、私たちが見つけられなかったハーモニカの魅力を発掘してもらえる日が来るのを楽しみにしています。

マスクをつけることが当たり前になってしまった世の中では、深呼吸をすることを忘れがちですが、ハーモニカは吹いても吸っても音が出る、呼吸と密接した楽器です。口にハーモニカを当てて深呼吸をすれば音が鳴ります。音楽を楽しみながら、横隔膜をはじめとしたインナーマッスルを鍛えることもできるので、老若男女問わず全ての方に楽しんでいただけます。

私にとってハーモニカは「歌よりも歌える楽器」。そしてずっと一緒にいる相棒のようなものです。これからもこの相棒と歩んでいけたらと思っております。

  • 父の遺品のハーモニカ

    父の遺品のハーモニカ

  • 佐藤先生と父と河原で

    佐藤先生と父と河原で

  • 「ワールド・ハーモニカ・フェスティバル2001」表彰式。左から2人目が本人

    「ワールド・ハーモニカ・フェスティバル2001」表彰式。左から2人目が本人

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