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2021年5月掲載

手作業の魅力ー唯一無二の手作り時計ー

菊野 昌宏さん/独立時計師

菊野 昌宏さん/独立時計師
1983年北海道生まれ。陸上自衛隊勤務を経て時計の道へ。2008年ヒコ・みづのジュエリーカレッジ卒業後、独学で時計づくりを始める。世界で初めて自動割駒式和時計を腕時計サイズで制作した「不定時法腕時計」が認められ、2011年AHCI(独立時計師アカデミー)準会員となる。2013年には日本人初のAHCI正会員に認められる。2015年「和時計改」、2017年「朔望」を発表。
https://www.masahirokikuno.jp

小さい頃から自分で考えてものを作ることや細かい作業が好きだった。大人になるにつれ、世の中の製品のほとんどは分業で行われ、一部の製作にしか関わることができないということを知り、ものづくりへの関心が薄れてしまった。

しかし、精巧で美しい機械式時計を一人で設計・製作・組み立てを行い、時計を作る独立時計師の存在を知り、自分がやりたかったことはコレだ!と仕事を辞め時計学校へ進んだ。22歳の時だ。

学校では主に時計の基礎や修理法を学ぶため、時計の製作については独学で行わなければならなかった。また製作には機械や道具、資金が必要だという現実を目の当たりにし、独立時計師という夢を諦めかけた。

そんな時、江戸~明治時代の発明家、田中久重の万年時計と出合い私の考えは変わった。

100年以上前、今より機械や工具が乏しい時代にこんな素晴らしい作品を作った日本人がいた。昔よりはるかに恵まれた環境にいる自分にもできるのではないか?自分の力でできるところからやってみよう。そう決意し、少ない道具を使い手作業で時計を作り始めた。

そして約10年経った今も私は手作業で時計を作っている。最新技術を使った分業でのものづくりの方が速く正確なものを作ることができる。手作業での時計づくりに疑問を抱いたこともあった。

しかし、時計を作る際、五感をフルに働かせ、思考錯誤を繰り返し一つのものを作り上げる。そのプロセスはとても楽しく充実して生きている実感があった。そして私自身が魅力的で欲しいと思える時計は何かと考えたとき、個人が持つ技能を駆使して作られた唯一無二の時計が欲しいと思った。だから自分が時計を作るならやはり手作業だと確信した。

ただ、手作業がゆえに年に数本しか作ることができず、お客さまを数年お待たせしてしまうこともある。しかし、ありがたいことに、ほとんどの場合、「待っている時間も楽しい」と時計を手にするまでのプロセスを楽しんでくださっている。

ここ数年は、お客さまの希望や哲学などを伺い、意見を交わしながらお客さまと一緒に唯一無二の作品を作り上げている。そして時計と共に、一冊の写真集をお渡ししている。

手作業での時計づくりは工程も多いため、ごく一部ではあるがその時計がどのように作られたのかという成長日記である。それは単に作業の工程を紹介するだけでなく、作り手として感じた私の楽しみや喜びも写真集を通してお客さまにも感じて欲しいと考えお渡ししているが、皆さまに大変喜んでいただいている。

買い手と作り手が大きな喜びを生み出すことのできる手作業の仕事は、決して最新の技術に劣っていないと今では言える。

  • 和時計改

    和時計改

  • 文字盤の透かし作業

    文字盤の透かし作業

  • 時計づくりの工程を記録した写真集

    時計づくりの工程を記録した写真集

(無断転載禁ず)

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