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2019年9月掲載

努力すれば可能性が広がる国へ

石田 由香理さん/フリー・ザ・チルドレン・ジャパン ボランティア

石田 由香理さん/フリー・ザ・チルドレン・ジャパン ボランティア
1989年生まれ。1歳3カ月より全盲となる。高校まで盲学校に在学後、国際基督教大学、英国サセックス大学院にて途上国の教育支援を学ぶ。現在は行政法人にて国際協力に携わる傍ら、認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパンのボランティアとして、フィリピン障害者支援事業を担当。プライベートでも年に2度はフィリピンを訪れている。 http://www.ftcj.com/index.html

全盲の私が、フィリピンにおける視覚障害者の教育状況改善に関わり始めて、今年で10年になります。「お前が思っている以上に障害者って邪魔なんや」。母親から将来の可能性を否定された私に、フィリピンは存在価値を与えてくれた国なのです。

大学1年の終わりに、フィリピンへのスタディーツアーに参加しました。中盤でフィリピン人スタッフも交えて、ツアー中の体験や感想を共有し合う場がありました。参加者たちのほとんどが日本語で発言し、それを同行スタッフが英語に通訳していたのですが、私が日本語と英語の両方で感想を伝えたところ、現地スタッフに非常に驚かれました。「君は一体どうやって教育を受けてきたんだ。この国では、障害者はまだまだ何もできないと思われていて、教育を受けても仕方がないと思われている。でも君は大学まで通い、こうして外国にまでやって来て、健常者が日本語だけで発言する中で、君は英語で発言できる。だから、教育に関わる者として、僕は君のバックグラウンドにとても興味がある」。

それから10年、私は、フィリピンにおける障害者、特に視覚障害者の教育状況の改善に関わり続けています。私がこれまでどのように学んできたかをフィリピンの人に伝えれば、フィリピンの視覚障害者の方が置かれた環境を改善できるのではないかと考えたからです。

フィリピンにいるであろう障害者の9割は出生届が出されていないため、その存在や状況を把握できません。存在が分かっている視覚障害者の中で、学校に通えているのは5%未満です。教育を受けても仕方がないと思われていること、就職先がほとんどないこと、学校側が受け入れないこと、点字ブロックもなく、道路状況が整っていないため単独での通学が難しく、毎日送迎する人が確保できないことなど、就学を妨げている理由は多岐にわたります。

共通しているのは、障害者の可能性に誰も期待しておらず、本人の努力だけでは道は開けないということです。

日本には70校以上ある盲学校ですが、フィリピン国内に高校までの教育を受けられる盲学校は首都に1つしかありません。地方に生まれた子どもたちも高校卒業までの教育を受けられるよう、フィリピンの国立盲学校と共に最初に行ったのが、劣化した寮の修繕と点字プリンターの購入でした。盲学校の環境が整ったことにより、中退率が減り、学生数もここ2年増え続けていますが、まだまだ取り組むべき課題はたくさんあります。

2012年まで小学校6年、高校4年の10年教育だったフィリピンですが、世界基準に合わせて高校を6年に延長した12年教育に変わり、教科書も改定されました。それから7年たちましたが、まだ12年教育に合わせた教科書の点訳が間に合っておらず、地域の学校に通う視覚障害の学生には教科書が配布されません。

過酷な教育環境を耐え抜いても就職先がほとんどないという壁も夢を奪います。人は生まれる国を選ぶことはできません。フィリピンで、障害者として生まれた人たちが、せめて目標を描けるように、努力すれば可能性は広がると思えるような環境をつくるため、今後もフィリピンの人々と共に活動を続けていこうと思っています。

  • 盲学校の寮の竣工式でのスピーチ

    盲学校の寮の竣工式でのスピーチ

  • 盲学校の寮で説明を受けている様子

    盲学校の寮で説明を受けている様子

  • 盲学校授業風景

    盲学校授業風景

(無断転載禁ず)

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