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2019年3月掲載

産後から世界を変える

吉岡 マコさん/認定NPO法人マドレボニータ代表

吉岡 マコさん/認定NPO法人マドレボニータ代表
1972年生まれ。東京大学文学部卒業後、同大学院で運動生理学を学ぶ。98年出産を機に、日本の産後女性のサポート体制の不在を知り、産後ヘルスケアのプログラムを独自に開発、「産後ケア教室」を立ち上げる。2008年NPO法人マドレボニータを設立。指導者の養成・認定、啓発や調査研究にも取り組む。
https://www.madrebonita.com

どんな人も、親しい人が出産したら「おめでとう」と声をかけるだろう。しかし「出産は祝いごと」という慣習の一方で、父親・母親になった当事者は多くの試練に直面する。産婦は体の痛みと、それを誰にも理解されない孤独感を抱えながらの育児のスタートとなる。

1998年3月、私は、赤ちゃんとの対面に胸を膨らませ、出産した。赤ちゃんはかわいい、その気持ちに嘘はないけれど、自分の体がもっと元気だったらいいのにと切実に思った。子宮から胎盤が剥がれた傷痕、しつこく続く悪露(おろ)と呼ばれる出血、身体中の痛みと疲れ。産後を甘く見ていた。さらには妊娠中は母親学級や妊婦健診があったが、出産後の健康は自己責任とされていることを知った。

産後の体を回復させて「元気な体で子育てしたい!」と希求した私は、自分の身体を実験台にして「産後のリハビリ」に取り組んだ。産後の体に優しく、かつ適切な負荷をかけられるような運動プログラムをつくり、0歳児の母親を集めて教室を開いた。参加者からの感想をもとにプログラムを改良し、次の3本の柱からなる、心と体の両方に働きかけるプログラムを完成させた。

(1)有酸素運動と筋トレからなる運動
(2)「シェアリング」というコミュニケーションのワーク
(3)自宅でも自分をケアできるセルフケア技術の習得

「産後ケア教室に救われた」と連絡をくれる母親たちに励まされ、やがて、私もインストラクターになりたいという人物が一人また一人と現れ、インストラクターの養成を始めた。2008年にはNPO法人マドレボニータを設立し、インストラクターの養成・認定と産後ケアの調査・研究・啓発に取り組んできた。現在、教室を教えるインストラクターは30人、全国20都道府県に70を超える教室が開催されている。法人としては現在12期目に入り「全ての母に産後ケア」から「全ての家族に産後ケア」へとスローガンを刷新して、活動している。赤ちゃんを家族に迎えるというのは、女性だけの問題ではないからだ。産後ケア教室に参加する女性から「夫から、笑顔が増えたねと言われる」「夫婦で建設的な話ができるようになった」という感想を頂くことも多い。

日本は、新生児死亡率が最も低く、安全に出産できる国として評価を得ている。しかし、産後はどうだろうか。虐待で命を落とす子どもの4割は0歳児。産後1年未満に死亡した女性の死因は「自殺」が最も多く2年間で92人という深刻なデータが昨年発表された。これは、本来、最もサポートが必要な時期である「出産後」のケアを「自己責任」に任せてきたからではないだろうか。

産後ケアがより拡充されれば、産後うつ、乳児虐待、夫婦不和、女性のM字カーブ(女性の世代別労働力率)問題、など産後に起きる問題は予防できるはずだ。産後は自分の心身や人生を見直すチャンスでもある。「産後という大きな人生の移行期に、心身に向き合い、人生がより豊かになった」という声も度々頂く。私たちの次なる目標は、産後ケアが社会のインフラとなり、格差なく産後ケアが全ての家族に届くことだ。「産後から世界を変える」という心意気で活動を続けている。

  • 全国20都道府県で教室を教える認定インストラクター

    全国20都道府県で教室を教える認定インストラクター

  • 産後の女性が一人の大人としてもリスペクトされる場

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  • 産後の体に負担をかけずに体力を取り戻す効果的な運動

    産後の体に負担をかけずに体力を取り戻す効果的な運動

(無断転載禁ず)

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