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2018年12月掲載

ことばを人生の味方に

上田 假奈代さん/詩人・NPO法人ココルーム代表

上田 假奈代さん/詩人・NPO法人ココルーム代表
1969年吉野生まれ。3歳より詩作、17歳から朗読を始める。相手に質問をして聞いたことをお互いに詩をつくる「こころのたねとして」、複数人でつくる「合作俳句」など、ワークショップの手法を開発。著書「釜ヶ崎で表現の場をつくる喫茶店、ココルーム」(フィルムアート社)。大阪市立大学都市研究プラザ研究員。2012年度朝日21関西スクエア賞。2014年度文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞。
http://cocoroom.org

大阪市の西成区、通称・釜ヶ崎で喫茶店のふり、 、をしたアートNPO活動は16年目になる。ひとりでは運営できないので、大阪で「表現」を仕事にしたいと考える若者たちと始めた。共同経営者はみつからなかったが組織をつくり、「出会いと表現の場」としての喫茶店を拠点にした。2012年から、まちを大学にみたてた「釜ヶ崎芸術大学」という大学のふり、 、を始めた。天文学や合唱、ダンス、俳句など、年間100講座をサポーターとともに運営している。

これまでにおこなった3度の引越しはすべて、空き店舗の活用になる。2016年春からは同じ地域で、35ベッドの「ゲストハウスとカフェと庭 ココルーム」という宿泊施設を運営し、ゲストハウスのふり、 、もしている。

何かのふり、 、をすることは、1度きりの人生をどのように生きるかという真摯な問いを軸にしたうえで、今の時代には有効だと思う。普段のコミュニティや身の回りの人だけでなく、これまで会えていなかった人に出会う。それは驚きやとまどい、自分の思慮や想像力のなさに情けない気持ちを持つこともあるが、学びや気づきを重ねることは問いへの栄養になる。

わたしは現代文学である詩を仕事にしようと、決意して、失敗したらやめるつもりで17年がすぎた。続けることができたのはさまざまなかたちで関わり、応援してくださった人々のおかげだ。詩人と名乗りながら、さまざまなふり、 、をすることで、広がりを持ち、社会や状況に応じて変化していくことができた。詩の中核とは精神性・哲学だと考えている。詩の形にこだわらず、さまざまなジャンルとのコラボレーションを続けてゆくと、地域、福祉、医療、就労、社会調査、マンションの管理業務、教育、まちづくりなど、多様なセクターと協働の機会に恵まれた。それらの経験から学んだことを社会への関わりにいかす。私自身の詩作のなかにいかす。

「ことばを味方に」を、長年キャッチフレーズにしている。ことばとは、おもいを表し、呼びかけ、そして表された気持ちに応える態度を支えるものだと思う。一方、ことばにできないおもい、の大切さを思う。けれど、ことばにする勇気や思索があってこそ、ことばにできないおもいが際立つ。ことばを味方にしていくという態度は、けして難しいことばをつかうことではない。むしろ、自分の奥底にある弱さをひらいていくことになる。弱さをひらくとは、頑なになるのではなく、ことばにしてとりだすこと。そして、そのまま、ああそうか、と思うこと。自分を責めたり後悔などしない。悩みや困りごとをなんとか言語化できたら原因がわかる。それだけでもすこし楽だ。もし聞いてもらえたら、もっと楽になるかもしれない。もっとも相手が余計なことを言わなければ、だが。もし、そう言われたとしても、自分の感情がどう揺れたのかをみつめて表してみる。その繰り返しのなかで、生きることの軸が磨かれてゆく。ことばを味方に、とは、生きるための工夫を重ねることなのだ。

  • 釜ヶ崎芸術大学の俳句部のようす。3人で一句つくる。

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  • 釜ヶ崎夏祭りで歌う釜ヶ崎芸術大学の合唱部。2018年夏

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(無断転載禁ず)

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