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2017年12月掲載

筆と墨でできることは何でもやってみる

平野 燿華さん/十書家

平野 燿華さん/十書家
宮城県南三陸町出身。大倫書道会師範、日本教育書道藝術院師範科卒。6歳から古典的な書を学んでいたが、ドイツ留学中に、手本がないと作品を創れない事実に気づき、「自らの中から出てくる思いを表現する書」を創ることを決意。帰国後、7年間の会社員生活を経て、書家として独立。アーティスト活動を行うかたわら、ワークショップの開催、ロゴ作成などを行う。
http://www.toshoka.com

「あなたの書は何というカテゴリーに入るのですか」とよく聞かれます。作品を見た方からは「書というよりは絵」とも言われます。書道家ではなく十書家(とおしょか)と名乗るのも、十人十色の言葉からヒントを得て、「いろんなものにいろんなものを書く人」という自分の書き方を表したかったからです。

長い間、古典書道を習い続けてきましたが、大きな転機が23歳で心理学の勉強のためにドイツに留学したときでした。学生をしながら、大学と美術専門学校で書道の講師をしていたのですが、友人から「部屋に飾りたいから何か書いて」と頼まれました。当時すでに15年以上、書を習っていたのにもかかわらず、普通の「上手な字」しか書けなかったのです。先生のお手本がなければ空間を飾るものが創れない、という事実にがくぜんとしました。守破離でいうところの「守」しかできず、破って離れていかないと、どこにも行けないという焦燥感のようなものを感じました。以来、自分が書きたい書はどのようなものなのかを問い続けるようになりました。

帰国後、書とは関係のない仕事をしていましたが、書のグループ展への出展や個展を後押ししてもらえる機会がありました。展示のテーマに沿ったコンセプトを考え、それを表す漢字を探し、墨で表現をすることを始めてから、筆は最強の文房具である、と思い始めました。1本の筆が表せる太さや線質は限りなくあって、そこに墨の濃淡がのると本当に多彩な表現ができることに、のめり込んでいきました。書道の教室ではやってはいけない二度書きや、筆をわざとボサボサにして線を書いたり…。下敷きに墨を垂らして、上に紙を置き、そのにじみで海を表現するといったアイデアが出てきました。それが今につながり、筆と墨でできることは何でもやってみる、という作風になっています。

しかしながら、今でこそ表現者として活動をしていますが、小さいころは絵や工作が苦手でした。美術の成績が芳しくなかったとき、母から「我が家は芸術のセンスがない。あきらめなさい」と言われ、それなら仕方がないと思うような子どもでした。

ただ、自分の中には、何かを言葉で表したいという欲求がずっとありました。それを表現できるツールが書かもしれないと気づいたとき、長い間ためこんでいた思いが、せきを切ってあふれるように、書を通して出てきたという感覚がありました。

そんな私が思うのは、誰しもが何かを創り出したいという欲求を持っていて、それが発芽するかは、表現できるツールに出合えるかどうかということです。そして表現をすることを自分に許可できるか。これをクリアした先に自由な表現が存在しているのだと思っています。

今後は、書道という固定観念にとらわれずに自由な作品を作りながら、大人の方が創造性を解放できる書を創作する場を提供したり、また人を惹きつける筆文字ロゴの作成を手がけていきたいと思っています。

  • ドイツでの授業風景

    ドイツでの授業風景

  • 「知足」

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  • 「響」

    「響」

  • アメリカ・ポートランドでの実演

    アメリカ・ポートランドでの実演

(無断転載禁ず)

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