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2017年11月掲載

イスラム圏に暮らす人々の温かさを伝えたい

常見 藤代さん/写真家・作家

常見 藤代さん/写真家・作家
1967年群馬県出身。上智大学在学中のインドネシア旅行を機に写真を撮り始める。以後、20年以上にわたり中東イスラム圏を取材。2003年よりエジプトの砂漠で一人で遊牧する女性と暮らしながら取材。08年『砂漠のサイーダさん』(福音館書店)出版。これを受けて「第19回旅の文化研究奨励賞」受賞。11年「第9回開高健ノンフィクション賞」最終選考ノミネート。他に著書多数。
http://www.f-tsunemi.com/

現地の人と暮らして取材し、写真展や本で発表する。それが私の仕事です。20年以上にわたりイスラム圏を取材しています。2003年から砂漠で暮らす遊牧民女性と通算300日以上生活をともにし、『女ノマド、一人砂漠に生きる』を書きました。毎年3度はイスラム圏へ足をのばし、旅エッセイ『女ひとり、イスラム旅』を出版しました。

取材させていただくのは、主に現地で偶然知り合った人たちです。イスラム教徒の人々は、部外者を温かく迎え入れてくれる、心優しい人たちばかり。

きっかけは、大学を休学して旅したインドネシアです。小さいころから人見知りが激しく、「自分を変えたい」と思っていました。大学でインドネシア専門の教授の授業をとったのが、インドネシアを旅した理由です。片言のインドネシア語で現地の人と二言、三言交わすと、きまって「うちに来なさい」となる。こうして家に泊まること30数軒。それが「泊まりながら取材する」私の原点です。

イスラムというと、「お酒が飲めない厳しい宗教」「テロばかりしている暴力的な宗教」。そんなイメージがあると思います。実は全く違います。とても人にやさしく、人間くさい宗教です。例をご紹介したいと思います。

聖典コーランには、「物乞いに施しをする人は天国へ入る」、「物乞いを邪険にするな」と何度も書かれています。貧しい人にとても優しい。自分の家に物乞いを招いて一緒に食事することも、よくあります。パキスタンの多くのレストランでは、裕福な人からの寄付で無料の食事サービスを行っています。貧しい人は3食ただで食べられるのです。

イスラムでは「女性は守るべき存在」と考えられています。「女性は宝石」という言葉もあります。駅などの切符売り場の行列でも、女性は男性の前に堂々と割り込めます。男性は絶対に文句を言わない。女性の当然の権利です。バスや電車に乗れば、自分の父親くらいの男性が席を譲ってくれます。

結婚したら家計はすべて男性の負担です。これは宗教の義務。また結婚前に離婚の際の慰謝料を決めておきます。離婚した女性が生活に困らないためのものです。

男性は4人まで妻をめとることができますが、家計の負担はすべて男性で、妻が3人でも4人でも同じ。だから実際には複数の妻を持つのは不可能に近いのです。

コーランには「親に優しくしろ」と何度も書かれています。それは、他人の親や老人一般にも適用されます。地下鉄などでは、老人が乗ってきたら、皆即座に席を立つ。驚くほどのフットワークの軽さです。

夫婦の性を奨励するのもイスラムの特徴です。性に対して「不浄」、「汚らわしい」などの考えは全くありません。ある日、エジプトの夫婦と話していて、「妻がセックスしたくなくて、夫がしたいとき、どうするのか?」という話になりました。私が「日本では夫が仕方なく我慢するか…」と言葉をにごしたら、「それはイスラムでは禁じられているのよ!」と奥さん。夫婦間で性を楽しむことが宗教で奨励されているのです。だから結婚は半ば義務。「結婚しないかもしれない症候群」などの言葉がありません。

イスラム圏を旅していると、人の表情がとても穏やかなのを感じます。数えきれないくらい旅して、危ない目にあったことは一度もありません。宗教の教えが生活に根付いているからです。

これからも日本人が知らないイスラムの側面、またイスラム圏の旅の楽しさを伝えるため、旅に励み、創作活動に専念していきたいと思います。

  • エジプトの結婚式で踊る女性

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  • エジプトの砂漠で1人で移動生活を送る女性サイーダ

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  • イランで滞在させていただいた家の姉妹。スパゲティを料理中

    イランで滞在させていただいた家の姉妹。スパゲティを料理中

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