「アンティーク着物」の魅力を伝えるために
- 大野 らふさん/アンティーク着物スタイリスト
- アンティーク着物に魅せられ、2003年、ライター・編集者として活動のかたわら、東京・谷根千にアンティーク着物店「Ponia-pon(ポニアポン)」をオープン。その一方、カルチャースクール等で講師を務める。著書に『大正ロマン着物女子服装帖』(河出書房新社刊)など。2016年、弥生美術館の展覧会「谷崎潤一郎文学の着物を見る」では着物スタイリング、監修を務めた。
http://poniapon.com
「アンティーク着物」とは、大正末期から昭和15年ごろまでにつくられた着物を指します。西洋文化の影響を受けた、この時代の着物は色鮮やかで、大胆な柄のものが多く、時を経て、今、再評価されるようになってきました。
最近、うれしい知らせが届きました。私が着物監修をした「谷崎潤一郎文学の着物を見る」展の巡回展が来秋、京都で開催されることになったのです。会場は京都・天王山山麓にある「アサヒビール大山崎山荘美術館」。この美術館は昭和初期に建てられた英国チューダー様式の3階建て山荘が本館です。10年以上前に行ったことがあるのですが、童話から抜け出たような三角屋根のお屋敷、こげ茶の柱や梁、筋交いが張り巡らされた高い吹き抜け、大きなバルコニー…美術館そのものがアートだなあ、と思いました。
「谷崎潤一郎文学の着物を見る」は昨年春、弥生美術館(東京・文京区)で開催された展覧会です。昭和の文豪として知られる谷崎潤一郎ですが、その作品を読むと、彼が女性にも、着物にも執拗にこだわっていることが分かります。この展覧会では、そのこだわりを視覚化して、谷崎の描写に沿って、着物や帯を合わせるという試みを行いました。写真や描写や挿絵を見て、一枚一枚の着物を探し、イメージに近づけていく。1年以上を費やした骨の折れる仕事でしたが、展覧会には1万8000人ものお客さまが見えられ、多くの方に喜んでいただきました。また、エッセイスト・平松洋子さんが、展覧会の図録の役割も果たした『谷崎潤一郎文学の着物を見る』(写真)を「それぞれの人となりに踏み込むコーディネート」(『サンデー毎日』2016・5・1)と評してくださいました。
谷崎は関東大震災の後、住まいを東京から関西に移しました。関西での暮らしの中で、女性の好みも着物の好みも変わり、その結果誕生したのが代表作『細雪』です。谷崎潤一郎の美意識を育てた関西での展示は、展覧会に関わった一人として、楽しみで仕方ありません。関西のお客さまがどんな感想を持たれるか、今から興味深く思っています。
また、大山崎山荘は1990年代に取り壊しの危機にあったと伺いました。アサヒビールが京都府から依頼を受け、買い取って美術館に生まれ変わった経緯があるそうです。日本では時代の空気をはらんだ文化遺産と呼べるものがどんどん壊されてしまいます。それは、アンティーク着物をめぐる環境も同じです。建物も、着物も古くなったモノであるだけではなく、さまざまな人々の美意識、思い、技術が込められています。一つ一つが人々の歴史ではないかと思います。私自身の役割はアンティーク着物の魅力をより多くの方に知っていただくこと。「谷崎潤一郎文学の着物を見る」展も、その一環として携わりました。大山崎山荘での展覧会は、建物も着物も両方の魅力を一層伝えることができるはず、と今からわくわくしています。
(無断転載禁ず)