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2025年6月掲載

目を瞑る文化を、暮らしの中に 香炉を植木鉢にアップサイクル

橋本 卓尚 さん/ハシモト清3代目

橋本 卓尚 さん/ハシモト清3代目
1982年生まれ。家業の神仏具問屋である株式会社ハシモト清の代表取締役。2009年に入社し、ガラス仏具、ミニ骨壷などを製造販売。20年に#SilenceLAB事業を立ち上げる。第1弾として仏具をアップサイクルした「わびさびポットⓇ(植木鉢)」を販売。24年よりラジオ番組『日本のものづくりと美しい生活』を配信中。25年中にリトリート施設を開業予定。
https://www.hashimoto-sei.com

仏具開発のきっかけ

私は富山県高岡市で、創業80年を迎える神仏具問屋〈ハシモト清〉の3代目を務めています。

かつての日本には、どの家にも仏壇があり、家族みんなが手を合わせていました。家を建てる際の予算の3分の1が仏間に充てられるほど、暮らしの中心に「祈りの場」があった時代です。けれど今、仏壇のない家庭は全体の7割を超えました。住環境も家族構成も大きく変わり、仏壇は「必要のないもの」とされるようになったのです。

私は2009年、県外の電機メーカーを辞めて家業に戻りました。そのときすでに、仏具の売上は右肩下がり。危機感を抱きながら、「このままでは終わる」と思いました。

そこで始めたのが、ミニマムでモダンな仏具の開発。手元供養のニーズを受け、小さくて愛着の湧くミニ骨壷もつくりました。使う人の目線に立って、今の暮らしに寄り添う祈りの道具を届けたい。その思いは、次第に商品から空間全体へと広がっていきました。

香炉を植木鉢に

ある日、会社の倉庫に山のように眠っていたデッドストックの香炉が、デザイナーの家で植木鉢として活用されているのを目にしました。それは、捨てられるはずだった仏具が新しい命を得て、暮らしに息づいている姿でした。この瞬間、神仏具はもっと自由に、美しく、現代に寄り添えると確信しました。

そのデザイナーや職人と共に、#SilenceLAB(サイレンスラボ)を立ち上げ、香炉に植物を植える器《わびさびポットⓇ》を開発しました。経年変化する真鍮(しんちゅう)の味わいと植物の命が重なるその器は、「目を瞑り、自分に戻る」時間を日常にもたらしてくれます。

心の拠り所を暮らしに

仏具とは本来、日常の中で自然や祖先と静かにつながるための道具です。目を瞑る時間、香をたく時間は、かつて日本人が当たり前に過ごしていた”心の余白“でした。今、そうした時間はヨガや瞑想、サウナなどに形を変えて再び求められています。

私は今、2025年に開業予定のリトリート宿の準備を進めています。場所は、鋳物のまち・高岡の始まりであり、先祖と文化を祭る高岡關野(せきの)神社の境内です。

この宿は、”目を瞑る“という行為を通じて、自分とつながり、何かとつながり、心を落ち着ける場所にしたい。商品でもサービスでもなく、静けさを届ける”場“を提供したいのです。

仏壇という家具ではなく、「心の拠り所」を、現代の暮らしに取り戻す。それが、今を生きる私の使命だと感じています。

  • 手元供養のためのミニ骨壷

    手元供養のためのミニ骨壷

  • デッドストックの香炉を植木鉢として活用

    デッドストックの香炉を植木鉢として活用

  • #SilenceLABでは、わびさびポットの展覧会などを開催

    #SilenceLABでは、わびさびポットⓇの展覧会などを開催

  • 高岡關野神社で続く神事の様子

    高岡關野神社で続く神事の様子

  • わびさびポット(黒松)

    わびさびポットⓇ(黒松)

(無断転載禁ず)

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