「和編鐘(わへんしょう)」自然・平和・癒やしの音~おりんをつるした楽器と共に20年~
- ゆきね(有機音)さん/和編鐘奏者
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有機音工房
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【MAIL】yukine.koubo@gmail.com
【YouTube】
『響きのなかで眠りなさい』https://www.youtube.com/watch?v=gvhrQxkaYgw/
『音で織りなす相模川』https://www.youtube.com/watch?v=Nhw0sp3zXGM/
「和編鐘」について
古代中国、約2400年以上前の西周時代から伝わる「編鐘」という伝統的な打楽器がある。大きさの異なる青銅製の鐘を組み合わせて音階を構成し、美しい音色と響きを持っている。私はこの楽器をもとにして作った「和編鐘」を、20年以上にわたって演奏し続けてきた。
和編鐘は、仏具のおりん39個を逆さにつるし、市販のマレット(ゴムのバチ)をフェルトで包んだ自作のバチでたたいて演奏する。現在は、3オクターブまでの音域を演奏できるようになった。
音階の並べ方は中国の編鐘の形を継承し、半音(ピアノの黒鍵部分)も横に並べている。このため、滑らかに音を移動するグリッサンドも、小刻みに音を鳴らすトレモロも、西洋音楽で不協和音とされる半音なども、和編鐘では美しい響きとして演奏できる。
出合い
編鐘と出合ったのは1999年。京都で音楽活動をする中、名工の「技の音」をテーマにしたコンサートを開催することになり、おりんや銅鑼(どら)などの仏具鳴り物を作る南條一雄さん(南條工房)を訪ねた時である。正倉院古楽器復元事業をすすめる文化庁関係からの依頼で南條さんが手がけた編鐘の、美しさとその響きに心打たれた。自分で演奏したくなり、その後、編鐘を何度か借りて、寺院で演奏をするようになった。
ますます編鐘にひかれる一方で、貴重なものなので日常的に借りることはできなかった。そんな時、富山県で編鐘を作っている会社・山口久乗の存在を知り、高岡に飛んだ。社長の山口さんが作る編鐘は柔らかい音で、天上のような響きにすっかり魅了された。私は配置などの希望を伝えて新たに編鐘を制作してもらい、2003年に関西で開かれた世界水フォーラムで演奏した。
鐘のあゆみと特徴
演奏は好評で、編鐘でもっと演奏をしたいと思うようになり、編鐘奏者として活動を開始した。3オクターブになり、残響を止めないように鐘は半音階で横に並べ、現在の楽器の原形が2010年にはできあがった。また海外で演奏があることから、枠を折りたためるように自前の「有機音工房」で制作し、2015年ごろから「和編鐘」と呼び始めた。
京都の東山の陶芸家の家系に生まれた私は、自然に囲まれて育った。幼少期からピアノを続けていたため、大学卒業後は、豊かな自然に囲まれた京都の社寺で自然への関心を呼びかけるコンサートを開き始めた。
和編鐘は鳴らした鐘の響きが長く残り、数々の音が混ざり合い、融け合う中から生まれてくる安らぎの響きが、西洋的なハーモニー感覚とは異なる。川のせせらぎ、風が木々を揺らす音。そんな自然と同質の音世界を奏でるために、西洋音楽とは異なる自由な拍子感で作曲してきた(和編鐘の響きは自然と同じ1/fのゆらぎを持ち、脳内にα波がでると日本音響研究所で証明されている)。
愛知万博の時には、長良川の水源から伊勢湾に注ぐまでを実際に現地まで見に行き、『長良の生まれる処』など4曲を作曲。2011年の東日本大震災の後には鎮魂曲『曼天の音』を作り、各地でチャリティーコンサートを開催。2016年にはベルギーで震災5年の追悼コンサートに招聘(しょうへい)され演奏。それらのオリジナル曲と童謡などを収録したCD『癒しの響き』を2022年にキングレコードからリリースした。
安らぎの音世界
日本で鐘が楽器として演奏されることは少ないが、海外には鐘を組み合わせて鍵盤で演奏する楽器・カリヨンに親しみ深い国もある。和編鐘は、日本のカリヨンとして紹介されることが多い。
現在は、国内外でコンサートを開いている。私の公演では寝てしまうお客さんも多い。ピアノの演奏をしていた時は寝てほしくないと思っていたが、和編鐘の演奏では「気持ちよく寝てください」と言っている。最近は、和編鐘の音で浄化されるとか、よく眠れるので毎晩聴いているという方が多くなってきた。それほど日常生活が自然から離れているのだろう。
和編鐘のCDを窓の外の風の音のように静かに流して、心も体も音に包まれて癒やされてほしい。私はこれからも人の心に安らぎを届けるため、鐘の音を奏でていきたい。
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