小屋を訪ねて東へ西へ
- 遠藤 宏さん/フォトグラファー
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はじめに
畑や田んぼ、漁港の片隅にぽつんと立っている小屋を見たことがある方は多いと思います。私はそれらの写真を撮るために全国あちこちを訪ね回っています。なぜ小屋を?という理由は後ほどお話しするとして、まずは小屋との出合いから。
小屋との出合いは偶然だった
最初の出合いは秋田県三種町の畑でした。
私はフリーカメラマンで、その時はじゅんさいの収穫の様子を撮影するために、そこを訪ねていました。ひと通り撮影を終え休憩となった時、農家のおじさんが畑の脇に建っている小屋へと案内してくれました。それはトタン張りの簡素な作りで、建物として記憶に残るような特徴はありませんでした。強いて言うなら、煙突が1本ぶっきらぼうに壁から突き出ていたぐらいでしょうか。中に足を踏み入れると、煙突のつながっていた先はドラム缶を輪切りにしたストーブでした。太い広葉樹のまきが熾火(おきび)となって、鍋をコトリコトリと煮ていました。
じゅんさいを収穫するには水の中に手を入れて、一つずつ手づみしていきます。夏でも体が冷えてしまうため、暖を取るために火がくべられていたのです。
農家のおじさんが「うまいぞ」と言って、じゅんさいの入った汁を発泡スチロール製のおわんによそって振る舞ってくれました。それをいただきながらぐるっと小屋の中を見渡すと、壁には演歌のポスターが張られ、奥の土間には農具が置かれていました。板張りの床はごろっと寝転ぶことができるスペースも確保されています。素っ気ない外観からは想像もできませんでしたが、その空間からは、じゅんさいを丁寧に手づみし、生計を立てている人たちの温かみと懸命さが伝わってきました。
ひょっとして小屋って奥深くて面白いのでは?そこから私の小屋巡り、小屋撮影がスタートしました。
小屋の魅力とは
小屋の写真を撮る上での1番の魅力は、やはりそのたたずまいです。
幾度となく開け閉めされた戸はだいぶガタピシし、強風に耐えてきた柱は傾きがち、トタンはさびてツギハギだらけ。あちこち不具合もありますが、まぁでも、なんとか踏ん張っている。そんな姿を眺めていると、なんだか他人とは思えない親近感が湧いてきます。
もう一つは、その小屋が何に使われているのかを知ることです。その場に所有者がいる時は撮影の許可をいただきつつ、小屋の来歴も伺うようにしています。
茨城県北部で土壁の小屋を見かけた時のことです。その外観からは、何のために使われているのか全く想像もつきませんでした。近くにいた年配の女性に尋ねたところ、今は使われていませんでしたが、冬季にこんにゃく芋を保管する小屋だったと教えてくれました。そして、嫁いでから一生懸命働いてきたことや、こんにゃく芋が凍らないよう火を絶やさず焚いたことなどをとつとつと語ってくれました。
思いもよらないことでしたが、小屋の所有者は労働を通した家族の思い出を、見も知らぬ通りがかりの私に、ときに楽しそうに、ときに懐かしそうに話してくれるのでした。
風景の中に小屋があることの豊かさ
小屋は農家さんや漁師さんが道具をしまったり、収穫物を保管したりするためにあります。言ってしまえば、小屋は所有者以外の人には、あってもなくてもよい存在なのかもしれません。しかし、そこに小屋があるということは、働いている家族の時間が流れているということで、ひいては私たちが日々いただいている食べ物を作ったり採ったりしてくれている人がいるということだと気づくようになりました。その人たちの姿や、あぜや浜で休んでいるひとときを想像すると、何気ない風景が豊かに見えてきて飽きることがありません。
これからもできる限り、全国各地東へ西へと小屋巡りを続けていきたいと思います。
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