ただの白い壁がアートに変わる瞬間
- おおくに あきこさん/NPO法人ウォールアートプロジェクト アートディレクター
- お問い合わせ先
https://wallartproject.net
なぜインドで開催しているの?
学校の教室の壁や天井などに全面に描かれるアート。その中で勉強する子どもたち。さぞ、気が散ると思われるかもしれません。
さまざまな単年の助成金を申請しながら、世界的に活躍するアーティストを招き、インドと日本の学校の壁に壁画を描く芸術祭を開催することを2010年から現在までの14年間続けています。アートディレクションしてこの世界に生み出した壁画は全部で64にのぼります。
なぜインドなの?と思われるかもしれません。
きっかけは小学生だった息子のPTAでした。子どもたちにこの世界のこと、平和について伝える会でした。ある時、インドで寄宿学校を建てたという日本の教育学部の学生たちと出会い、その活動を国際交流という視点で知らせたいとワークショップを企画しました。
日本の小学生たちは、親のいない子たちの寄宿学校と聞くと、自分たちにできることは何だろう、と考えます。最後の1センチになるまで鉛筆を大事に使っていると聞くと、鉛筆を届けたいと思います。それも大切な思いやりですが、「何かをしてあげる」という支援ではなく、遠いインドのさまざまな境遇の中で、自分たちと同じようにサッカーをして遊んだり、おいしいものが好きだったりするお友達がいるということを知ること、「水平な目線」こそが、国際交流につながると考えました。
そんな中、日本の学生たちが建てた学校が始動しました。学校は建てて終わりではなく、たくさんの子どもたちを呼びたいと思いました。識字率が50%という地域では、親が学校に行っていないと、子どもを通わせることを思いつかないということも多々あります。
教育を受けた現地の学生たちはそのことで貧困の連鎖が起きていることを危惧していました。そこで、相棒の「おかずくん」こと浜尾和徳くんの登場です。現地に単身で入って日本語とヒンディー語を教え合うことで学生たちと仲良くしていたおかずくんに、現地実行委員会を組織してもらいました。そして現地の人たちとタッグを組み、「学校って楽しいところだよ」とその存在を伝える壁画の芸術祭「ウォールアートフェスティバル」がスタートしたのです。
教室の壁、人生の壁が「壁」でなくなるとき
日本の学生たちが建てた学校には白い壁がありました。逆に白い壁以外は何もなかったといえるかもしれません。この白い壁に絵を描けば、壁は無限の可能性を持つ。身の回りにあって、一見価値のないように見えるものでも、使い方によっては価値を見いだすことができる、そんなことも伝えたいと思って始まった芸術祭でした。
アートは、言葉を超えてその素晴らしさを共有できます。子どもたちはアーティストが制作に打ち込む熱量を間近に感じ、徐々に完成していく過程を目の当たりにします。テストの点数とは無縁の、数値化できないところに素晴らしいものがあることを伝えることができれば、と思っています。
現地でさまざまな土を集めて絵の具にして壁画を描く淺井裕介さんが言いました。
「描いていると、子どもたちがいつの間にかすぐ脇まで見に来ていて、筆を持った手を下ろせなくなっちゃうんだよね」
森を見守る芸術祭フォレストアートフェスティバル始動
昨年6月、北インド、ヒマラヤの麓、ラダック地区にあるマトー村に6000本の木を植えました。ラダックはチベット仏教徒が多く住む場所で、仏教寺院の僧侶と村人、そして日本のボランティアやサポーターの皆さんと協働しての植樹でした。そして、その植樹地周辺にアートを配し、長い時間をかけて森の成長を見守る芸術祭が、「フォレストアートフェスティバル」です。
2024年7月から8月にかけて、アーティストたちの滞在制作が行われる予定です。公開制作の傍ら、アートワークショップを通じ、現地の皆さんと交流も深まるはず。まもなくラダックで制作補助をするアートボランティアの募集も開始します。どうぞ、WEBサイトなどを通じて見守ってください。
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