100年後に向けて叫ぶ、シンバル作り
- 山本 学さん/シンバル個人制作者・開発者
- お問い合わせ先
www.artcymbal.com
魅力について
あなたが100年後も叫び続けられるとしたら、どんな声で、どんな言葉を叫びますか?「私はここにいる!!」「愛してる!」「あー腹立つ!あー!!」シンバルに込めた自分の声で叫び続けられること、これがシンバル個人制作の最大の魅力だと思います。
個人制作のシンバルは1枚の青銅の板をハンマーで1万回以上たたいて作ります。たった数打、ハンマーの角度や強さが変わるだけで、シンバルの音は大きく変わります。納得のいくまで作り込んだ楽器の音は、モノとして永久に記録され、大事に使えば100年以上も使えます。100年後に自分の作った音が人の心を動かすことは、タイムカプセルを作っている気分でとてもワクワクします。
なぜシンバルか
シンバルは高校のオーケストラ部で初めて担当しました。全体を凌駕(りょうが)するダイナミックな表現だけでなく、その繊細な音にもひかれ、一夏かけて練習しても飽きない楽器でした。「楽器の王様」「小さなオーケストラ」と称されるピアノでも再現できない、ドレミにはない不思議な響きをシンバルでは出すことができます。
大学では音楽教育を専攻し、中学校の音楽講師、ドラマー・村上“ポンタ”秀一のアシスタントを経て、塾講師をしながら給料のほぼ全てをシンバル収集に注ぎ込みました。中でも工程が機械化される前の70~150年前のトルコ製ビンテージシンバルが大好きで、一音たたいただけで心が動くような、魅力的な音を求めて世界中を探しました。
ある時、自分でも作ってみよう!と河原にハンマーと銅板を持っていきました。1枚作るごとにコツをつかみ、YouTubeとオークションサイトに音を公開すると、世界中から買い手が現れました。2年ほどすると仕事になり、そこから5年ほどたちましたが、作った作品の大半は今も海外に送っています。
伝統をお返しする
実は大好きな70~150年前のビンテージシンバルは、すべてトルコの「ジルジャン社」の職人たちが手作業で作ったものでした。ジルジャン社とは、1623年にオスマン皇帝から「シンバル職人」の称号を与えられた一族の会社です。トルコにあった工房は1970年代に途絶えてしまいましたが、アメリカではジルジャン社は今日も続いています。
2023年にジルジャン社は創業400周年を迎え、光栄なことにその年に私はシンバル開発チームの一員に選ばれました。現在、私は日本で個人制作をしながら、アメリカのジルジャン社で製品開発の仕事もしています。これはすべて、70~150年前のシンバルたちが私に向かって叫び続けてくれたおかげです。今も名も知らぬ100年前のトルコの職人の声がシンバルから聞こえるようです。「ね、良い音でしょう?」と。
今後の展望
ARTCYMBALという「シンバルで自分を表現する事業」を始めて5年がたちました。しかし、いまだに心の底から満足がいく作品はなかなか作れません。聞いた人の心に何かを残せるような理想の音を目指して、次の1枚に全力を込めたいと思います。一方で、大きな工場とチームでしか作れない作品群も、ジルジャン社で開発していきたいと思います。
現在、さまざまな分野でデジタル化が進んでいますが、デジタルデータは突然消えたり、CDやレコードは劣化したり壊れてしまいます。でもシンバルはバチでたたいても壊れません!
シンバルを通じて、そういったアナログのモノづくり・音作りの面白さや、表現の楽しさを世の中に発信していきたいと思います。世の中にはまだ見つかっていない、意外で面白い表現方法が、デジタルとの組み合わせでこれからも生まれてくると思います。
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