屑鉄(くずてつ)工房とボルトマン
- 友田 秀一さん/友田工業 代表取締役・造形作家
- お問い合わせ先
屑鉄工房
https://www.kuzutetu.com/
鉄工所のPRで始めた造形
稼業は鉄板を切る・曲げる、パイプやアングルに穴を開ける、溶接して組み上げていく、いわゆる鉄工所。バブル崩壊後、従来のように元請けさんからの仕事を待っているだけでは立ち行かなくなると感じた。
一般個人の方々が気軽に鉄工所に頼めるようにできれば、壊れた階段を修理したり、段差にスロープを作ったり、そんな仕事が舞い込んでくるかもしれない。そこで、なかなか一般の方々にはなじみがない町工場を認知してもらうPRを考えた。
工場で製品を作る時の余り材、鉄板の切れ端やプレスの抜きカス、そんな屑鉄を溶接してバイクや恐竜に見えるようなオブジェを作り、若い絵描きさんや陶芸家さん達が作品を販売するクラフトフェアに参加してみた。屑鉄で作ったバイクや恐竜が売れていく。下請け仕事が主だった町工場の職人には目の前で自分の作ったモノが評価されることが新鮮でうれしかった。
ボルトマンの誕生
「屑鉄工房」と名乗り、より精密で、よりダイナミックなオブジェ作りにのめり込む。その一方で、身近さを感じてもらうには値が張ってしまう凝った造形作品ではなく、子どもがワンコインで買えるぐらいの何か親しみやすいモノがあると良いと思っていた。
工場で昇降機器の仮組作業に一度使ったたくさんのボルトやナットは売り物にならない。ある時、寄って集って、顔が付いて手足の生えたボルト達がモンキーレンチを解体している『ボルトの逆襲』という作品を作った。このボルト人形を単体にして雑貨品にしたのが、不用品のボルト、ナットを使ったオリジナルのキャラクター、「ボルトマン」である。
躍進するボルトマン
シンプルにボルト、ナットを組み合わせて溶接して作った鉄の人形なのだが、ボルトマンはクラフトフェアに並べた瞬間から私の想像を超えた人気者になっていく。学生時代に生物学をやっていた。骨格や筋肉の動きをある程度勉強していたおかげで、私の作るボルトマンは「生きているようだ」、「表情があるようだ」と言われることが多い。後発でボルトやナットを使った人形が続々と出てきたが、それらとの違いはこの1点だと思う。
ボルトマンはメモクリップや時計、アクセサリー等の雑貨品になり、契約店さんや百貨店のコーナーで販売をしている。プロレスなどの格闘系ボルトマンや楽器を奏でるボルトマンも人気だ。ボルトマンがカップ麺のふたを押さえながら砂時計で時間を計るボルトマンカップ麺タイマーは何度もメディアに取り上げられた。
ボルトマンを1999年に作り始めて20数年になるが未だに根強い人気を保っている。量産の話は何度もいただいたが、断ってきた。全てのボルトマンを私が自ら作っている。爆発的なブームはいらない。私が作って、提供し続けられる範囲で長く支持される方がありがたい。
拓かれた道と今後
ボルトマンは鉄工所のPRという役目を飛び超えてしまった感があったが、そうではなかった。本業と造形をミックスした仕事、例えば独創的な看板や門扉、手すり等の製作依頼を受けるようになった。企業のグッズ開発、ショップの内装や外装、演劇のセット案、映画の小道具等、思いもしなかった相談をいただくこともある。
お求めやすい価格で雑貨要素もあるボルトマンは、お買い上げいただいた方の家や職場の片隅に置かれる。何か困ったときにふとボルトマンを目にして、「屑鉄工房(友田工業)に相談してみよう」と、思ってくれることがあるようだ。
造形作家として展示会を開催する、ボルトマンをクラフトフェアや契約店さんで販売する。これだけでも、ただの鉄工所のオジサンだったころに比べれば有意義な機会に恵まれている。だが、誰かのために腕を振るうのが職人の本分である。お客さんから依頼を受けて、やり取りしながら共に創り上げていく仕事をもっとやりたいと思っている。
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