レコードは聴いてこそ、価値がある 〜時を忘れ、音楽を心と体全身で感じる癒やしの空間〜
- 中村 昌彦さん/音浴博物館 館長
- お問い合わせ先
音浴博物館
長崎県西海市大瀬戸町雪浦河通郷342-80
入館料:一般850円ほか
開館時間:10時〜18時(受付締切17時)
休館日:毎週木曜日
0959-37-0222
https://onyoku.org/
レコード聴き放題 音浴博物館とは
文字通り、音を浴びるようにアナログレコードを楽しむ施設です。福岡市生まれの栗原榮一朗が2000年に岡山県倉敷市から現在の地に移住して始めました。
レコードなどのコレクションの収蔵場所としていた倉庫が使えなくなり、新たな保管場所を探していた栗原は、各県知事宛てにメールを送信し、巨大な空き家のある町がないか尋ねます。そして、最初に反応したのが、長崎県大瀬戸町。現在の西海市大瀬戸町です。
早速この地を訪れ、地元で町おこしを企画している人たちと合流。ボランティアの組織もでき、受け入れ先も決まり、倉敷から10トントラック4台分の品物を運び入れます。そして、2001年4月に音浴博物館として開館しました。
ボランティアで任意団体を組織し、町の交流事業を行う委託事業となり、彼の夢の実現が近づいていきます。しかし、建物の老朽化に伴うリニューアルから1年後の57歳で栗原は急逝してしまいます。その後、栗原の妻が志を継ぎ、館長として事業継承しましたが、5年前に引退されました。
現在はNPO法人がコレクションを引き継ぎ運営しています。私は縁あって3代目の館長に就任しました。
ここはレコードファンの天国
音浴博物館は音楽、とりわけアナログレコードに関わる所蔵品が中心で、78回転のSP盤とLP盤、ドーナツ盤など約16万枚を所蔵しています。そして音響装置も壁のように積み上げられるほどあり、館内の5カ所で当時の音楽を楽しむことができます。
全国には他にもレコードを所蔵する博物館や図書館がありますが、私たちの音浴博物館が違うのは創始者・栗原榮一朗の遺志「レコードは聴いてこそ価値がある。それも空気の振動を体で感じて聴いてほしい」を実践していることが支持されています。
「この施設は世界中の人々に訪れてほしい」と音楽評論家・作詞家の湯川れい子さんからも高く評価いただいています。また日本を代表する音響機器ブランドTechnicsからは機材の提供をはじめ、運営にもご協力いただいています。
ほかにも熱心なビートルズファンの方から、「ここならば」と貴重なレコードやグッズを寄贈していただいています。
音浴博物館はロストワールド
音浴博物館が他の施設と違うのは、その立地にもあります。第二次世界大戦中に満蒙開拓団として、かの地にわたり敗戦で帰国された方々が、再度夢を描き入植した陸の孤島のような山中にある小学校跡地。今でも携帯電話が通じない山奥に、音浴博物館はあります。
古い廃校を修復した建物の中には、前述のレコード・音響装置以外にも、農機具や家具家電品、雑誌・本などがとりとめもなく並んでいます。その木造の建物と品物たちの持つ昭和の空気感が、まさにアナログの世界なのです。
「古きを訪ね新しきを知る音もあり、古きを蘇らせる音もある」です。
CDもすでに主流でなくなり、配信・サブスクへと音楽の楽しみ方が大きく変わった現在ですが、Z世代と呼ばれる人たちも音浴博物館で浴びるアナログレコードの音に感激し、虜(とりこ)になっていきます。
また青春時代をレコードや深夜放送で過ごしてきた世代にとって当時のレコードは、瞬時に若い頃へ連れて行ってくれるタイムマシンのようなものです。
レコードはサプリメント
「レコードは、見ているだけでも音が聴こえてくる」、栗原のコンセプトとは相反する表現ですが、そこも魅力なのです。
脳の活性化には、昔の思い出を語り合うことが有効=「回想法」が今また注目されています。
音浴博物館を訪ねられた皆さんは、「こんな山奥に何があるの?」「本当にたどり着くの?」、はたまた、くねくねの細い山道に疲れた方など、疑心暗鬼な表情でお越しになられます。ですが、お帰りの際は、「時間が足りない」「ここに住みたい」と元気になって帰っていかれます。もちろん毎月のようにお越しいただく方もいらっしゃいます。
音浴博物館のジレンマ
音浴博物館の機材も老朽化していきます。いつ部品が無くなるか、それらの保守はこれからさらに重要になってくることでしょう。レコードも消耗品です。
私たちは「皆さんに自由にレコードを楽しんでいただきたい。レコードの魅力を多くの人に知ってもらいたい」と、提供しています。しかし、私たちの常識及ばぬ方によって所蔵品が欠損していくことは避けたいです。
レコードの復権と同様に良心の復活に期待しています。
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