笑いを誘うパロディきりえ 〜偽本ブックカバーの世界〜
- 高木 亮さん/きりえ画家
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「偽本」とは?
ずらりそろった文庫本、表紙に並ぶタイトルは『罪と獏』、『長靴をかいだ猫』、『ヒルマの賭事』に『ぱしれメロス』?
間違いだらけのタイトルは、僕の手がけた作品だから。その正体は「中身を偽るブックカバー」、もっと伝わりやすいよう普段は「偽本(にせぼん)」と呼んでいます。もっともらしく見せかけようと偽の帯にキャッチコピーやあらすじまで書き込んだ、そんなパロディブックカバーを15年ほど前から作り始め、今ではそのラインアップは200種を超えました。
はじまりは本屋さん
僕の生業(なりわい)はきりえ画家。独学で身につけたきりえを、雑誌の挿絵やCDアルバムのジャケット、教科書などさまざまな媒体で発表してきました。代表的な作風は、画面から物語が感じられるような叙情的な一枚絵の世界。そんな僕がなぜこのようなふざけたものを作るようになったのか。
それはある本屋さんからいただいた、展示の依頼がきっかけでした。
併設のカフェスペースにある広大な壁面を自由に使っていいという、当時の僕には夢のようなお誘いに、「せっかくだから本屋さんにちなんだものを」と紙のオリジナルブックカバー100種でその壁を埋めつくすことを思い立ち、制作したものの中にあったのが今の「偽本」の原型です。
絵のブックカバーばかりだとお客さんも(作る僕も)飽きるだろうと、こっそり忍ばせたつもりのネタものが、やたらとウケて数も売れ、気を良くした僕は「偽本」をシリーズ化。その場所で5回続いたブックカバー展も次第に偽本中心のものへと姿を変えていきました。
6つの要素のどこかで笑いを
「偽本」は6つの要素で成り立っています。
まずはタイトル。ダジャレといわれればその通り。ぱっと浮かぶこともあれば、ネタ元候補のリストを見ながら、うんうんうなって出てくるものもあります。量産するのはなかなか大変です。
次は帯に当たる部分に書かれたコピー。これは浮かんだタイトルや絵にもうひとりの僕がつっこんだセリフそのままの場合が多いです。『罪と獏』では、独房に入ったバクの姿に思わず「何をした!?」。バットを構えた『だいだ(代打)赤おに』には「たのむぞ!」など。
絵とタイトル文字はきりえです。かっちり下絵を用意する普段のやり方とは違い、黒い紙に直接あたりを描いて切る、即興性を生かした方法で制作しています。それがこのシリーズに向いているように思うからです。
裏表紙のアイコンきりえは、あらすじの内容を象徴するものにしています。
帯裏に記すあらすじは、元の原作を踏まえた内容だったり、全くのオリジナルだったり、その時々でアプローチは異なります。共通して目指すテイストは「こんな本ありそうだ」または「続きを読みたい」と思っていただけるような「もっともらしさ」。そのために毎回かなりまじめにふざけています。
最後は架空の読者プレゼント。『長靴をかいだ猫』なら「ブーツの片方のみ」など、物語にちなんだ、もらっても困るものが多いです。
「一つの要素が弱くても、他との合わせ技でウケを取りたい」そう考えて作った形式です。
「にせもの」が「本」ものに?
展示を重ねるうち「全部購入するのは大変だから、まとめた本が欲しい」、そんな声をいただくようになりました。幸運にも良い編集者さんと出会え、2021年に文学編をまとめた『きりえや偽本大全』、2022年に映画編をまとめた『きりえや偽本シネマ大全』(共に現代書館刊)の2冊の本を上梓(じょうし)することができました。「偽の本が本物の書籍になる」という冗談のような展開ですが、おかげさまでご好評をいただいているようでうれしい限りです。
本にするにあたってはそのまま載せるのも芸がないと、各作品紹介ページの脚注に新たにコラムを書き下ろし、嘘にまた嘘を重ねています。
広がれ偽本の輪
本を出してうれしかったことは、普段の活動範囲外の全国の方から「偽本ブックカバー」のご注文があったり、遠方の書店さんから偽本展開催のお声がかかるようになったことです。
常にどこかで偽本展が開催され、誰かが僕の作品を見て笑顔になる。そんな状況になることが今の僕の身近な夢です。
(無断転載禁ず)