地元の杉田梅を通して町をにぎやかに
- 市原 由貴子さん/横浜 旬・菜・果 代表
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横浜 旬・菜・果
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幻の杉田梅
子どもの頃から酸っぱいもの、特に梅干しが大好きでした。近所に梅干し作り名人のおば様がいて、その方が作るしょっぱくて酸っぱい小梅の梅干しが今の私の原点になっているような気がします。
1600年代、北条家の家臣であった間宮信繁は地質が悪く、米や野菜が育たない杉田村(現:横浜市磯子区杉田)に梅を植えました。土地に合った梅は3万6000本までになり、村の産業となりました。花の時期には各所から観梅に訪れ、その様子を初代歌川広重が浮世絵に描いています。しかし明治以降、大火や塩害、戦争、宅地化で杉田梅林は廃れてしまい、その地にあった杉田梅も幻となってしまいました。
杉田梅の魅力
私がその杉田梅を知ったのは今から25年程前になります。出合った時の衝撃は今でもよく覚えています。その大きさ、桃のような芳しい香り、ビロードのような産毛のある手触り、全てに感銘を受け、もっと深く知りたい、学びたいと思いました。磯子区の木が梅に制定され、区としても杉田梅の復興支援に取り組みだしたのも大きなきっかけとなりました。
杉田梅の実は品種改良されていない杉田の在来種で、クエン酸濃度が高く、密度が高いのに果肉が柔らかく、完熟梅の香りが高いのが特徴です。梅干しにすると驚くほどの酸っぱさで食べた人の顔がくしゃくしゃになります。今はやりのはちみつ梅とは全く違う味わいです。梅ジュースにすると甘いだけではない甘酸っぱいおいしいジュースになり、暑い夏に飲むと体にしみ込んでいくような感じがします。
このクエン酸こそが私たちの体を助けてくれる成分で、梅干しには整腸作用、抗菌作用、抗がん作用、免疫力増加作用などがあるといわれています。杉田梅と塩、赤しそのみで作る私の梅干しはどこに置いておいても日持ちする最強の保存食です。
杉田梅を広める
生では食することのできない梅を塩や砂糖に漬けて加工して保存する方法を見出した先人の知恵は素晴らしいと思います。また、四季のある日本だからこそできる加工技術で、その技術を後世に伝えるのが今の私の役割だと考えています。地元の学校に出向き、杉田梅の話や加工法を教えることにより、子どもたち自身が地元に興味を持ち、杉田梅林や杉田梅を誇りに思ってくれることを望んでいます。
ご要望があり、始めた杉田梅製品の加工販売も杉田梅を広く知っていただくためには重要な事業です。ストーリーのある杉田梅製品は大手百貨店やスーパーでも高い評価を頂いています。より多くの消費者に手に取っていただけるよう、品質の管理、製品の開発、販売場所の増加など努力が必須です。
杉田梅林の復興
特に幻となってしまった杉田梅の木を増やしてたくさんの実を確保することが急がれていて、接ぎ木した杉田梅を各所に植えていただく運動をしています。実が収穫できるまで、6、7年かかる気の長い事業ですが、少しずつ進んでいます。
また、杉田梅林を復興するためには土地が必要です。しかし、今の杉田では難しい状況なので、お庭のある方はお庭に1本の杉田梅、杉田梅林の中心だった日蓮宗妙法寺は裏山に数百本の杉田梅を植える…そうすれば町全体が梅林にいつかなると思います。そのために毎年接ぎ木をお願いして、磯子の皆さまにお配りしています。
梅の町 杉田に
観光庁から採択を受けた事業の準備も始まっています。昨年に続いての採択は横浜では弊社のみで、今年は杉田梅まつりのリアル開催、梅コラボ商品の開発、梅の体験ツアーなどを予定しています。杉田梅を通して区外、市外の方が杉田を訪れて梅料理を食べたり、梅の加工体験をしたり、観梅をしたりできる、にぎやかな「梅の町 杉田」を再現したいと思っています。是非、横浜杉田にいらして下さい。
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