人形から世界を知る
- 髙 康治さん/世界の人形館 代表
- お問い合わせ先
世界の人形館
千葉県我孫子市我孫子2-3-1026
04-7184-4745
090-8726-5599
http://www.world-doll-wdm.com
終活
人生100年時代にあって85歳の私は、山で言えば8合目を過ぎた辺りか?実は70歳まで年齢のことは気に留めなかったが、以降は意識して終活に励むようになった。
まずクウェートとインドネシアのジャカルタに約9年駐在した商社マンの現役時代から好きな旅は、リタイア後も続けて世界制覇が最重要になった。世界のすべての国を巡り、275カ国・地域(南極など)を訪れた。半世紀にも及ぶさまざまな異国体験をベースに、7作の著書も刊行した。いずれも売れない本ばかりだが…。
次に、13年前より千葉県我孫子市の自宅マンション内で「世界の人形館」というプライベートミュージアムを無料公開している。その他、東京都内や千葉県内で無報酬の講演を引き受け、義金や地球儀なども度々寄付してきた。さらに留学生に日本語を教えるなど国際交流に注力し、各種社会貢献活動に尽力中。お陰様で紺綬褒章を受章した。
特に、妻が他界した3年前からは、ますます終活に拍車がかかる。今も多忙を極めるのが、人形館見学者のアテンドである。
世界の人形がコレクションの集大成
幼少時から珍しいものに対する収集癖があったが、1969年1月に厳寒の旧ソ連への出張で初めて外国の地を踏み、旅の思い出にと帰国時に人形などを買ったのが人形館のルーツといえよう。その後は海外出張や旅行の度に必ず人形のほかに、紙幣やコイン、仮面、絵画や木彫りなども集めた。
最も注力した人形は2000体を超え、全世界の国・地域で買い求めたものだ。各国の人形、特に民俗人形からその国の歴史・文化・経済・政治などの諸背景を知ることができ興味深い。それ故に私が世界の人形を好きになったきっかけとなり、特にカラフルで民族色豊かな人形に魅せられ、とりこになった。
多様な世界の人形
偶像崇拝がタブーの中東では人形はあまり見かけないが、それでも水タバコを吸う男やワンピース型の民族衣装ディスターシャを着た男の人形を見つけた。
南米ボリビアの部族の祭りが発祥のエケコは、願掛けする人形だ。南米の小国スリナムで入手した少女の人形はスリナムギルダーという紙幣を使ったエケコで、多数のお札が蛇腹状に重ね折られている。
アフリカの人形は素材の多様性が特徴的で、布や木に加えブリキの廃材も使われる。
2013年、イラクのクルド人自治区の旅で手に入れたのが、民族衣装を着た愛らしい少女の人形。当時は、過激派組織「イスラム国」(IS)の勢力が強く観光も危険だっただけに、ホテルのオーナーが苦労して探してくれた思いが詰まった人形だ。
印象的な人形
数多くの人形探しで最も忘れ難いのが、バルト海の沿岸国ラトビアで買ったマトリョーシカ。ロシアのマトリョーシカが一般に6つから8つの入れ子に対し、高さが10センチほどの小さなダルマ型だが10も入れ子がある精巧な作りだ。1996年に同国を訪れた時、自由市場で人形を売る10代前半の少女に出会った。かいがいしく働く姿に感動し、思わず購入したものだ。
また、今年2月からロシアが侵攻し、美しい穀倉地帯が焦土化するウクライナのマトリョーシカも思い出深い。同国西部の町リヴィウで買ったものは、大きさや絵柄などはロシアの標準的なマトリョーシカと同じ。今は憎しみあい闘っているが、元々両国は兄弟国なのだ。美しい黒海沿岸の大地に早く平和が訪れることを祈念したい。
今後の展望
他人様からは、1回り、いや2回りも若いと言われるが、いずれ来世に行かなければならない身。今、最も気がかりなのは、人形館の後継者が決まらないこと。手を挙げる身内がいないので、外部に働きかけてきたが成果なし。
私の分身ともいうべき人形への想いをくみ取っていただける人が、一括して引き取ってくれればうれしいが…。その行く末を案じる毎日を送っている。
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