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町の廃材との出合い

今からさかのぼること24年前、大阪府がチルドレンズミュージアムを設置することになり、総合プロデューサーとしてお声がけいただいて、初めての関西暮らしが始まった。事務所はボタン問屋さんのビルに置かせてもらった。通路にはボタンの見本帳が積み上げられていて、聞くとシーズンが終わると廃棄処分するとのこと。見せていただくと、美しいボタンがずらりと留め付けてあり、色の豊かさや形の面白さに圧倒された。子どもたちのモノづくりの材料にも最適なので、いただけないかと打診すると、「全部差し上げますよ！」との快いお返事。台紙に丁寧に糸で留め付けてあるので、それをハサミで切る手間はあるものの、ボタンのデザイナーについて思いをはせたり、「この形は、あれに似てる！」などと、切り離し作業の間中、次々にイメージが湧いてくる。仲間と一緒だとなおさら盛り上がろうというもの。

ボタンの一件の後、大阪の町を見渡すと、あるわ、あるわ…。夕方の道端には、さまざまな事業ゴミが出されていて、それを見ると、そのエリアにはどのような産業が多いのか、手に取るように分かってきて、ますます興味が湧いた。町は多種多様な仕事をする人たちで構成されている。駄目元で、いただけないかとお声がけすると、喜んで提供してくださり、また、どういう仕事の中からそれが生まれてくるのか、そのエリアの歴史や文化についてもお話をしてくださった。また、本来の用途とは全く違う使われ方や生かされ方をするのを、面白がってくださり、その後もお付き合いが続いた。

廃材の実験室

大阪時代よりもさらにぐっと踏み込んだ廃材の創造的な活用をしたくて、2013年、岡山県倉敷市にある実家を一部改修し、実験室であり情報のハブともなるIDEA R LAB（イデア　アール　ラボ）をオープンした。それまで世界中を旅しながら廃材活用の現場も見てきたので、それを書籍（『クリエイティブリユース‐廃材と循環するモノ・コト・ヒト』）にまとめて出版したのも同じ頃だ。ラボの近くにあった古民家は、廃材や端材を分類整理してストックするMaterial Library（マテリアルライブラリー）として整備し、どのような分類や保存の仕方が良いか、あれこれ試している。

ここで実験したことは、各地の美術館や文化施設で監修する展覧会で生かしたり、廃材活用のプロダクトの試作、新たなワークショップの開発に生かしている。

昨今は見学者が多くなり個別の対応が難しくなってきたので、研修プログラムをつくり、施設見学、レクチャー、ワークショップがセットになったものを提供している。これには、美術館の学芸員、デザイナー、大学の先生、学生、アートに力を入れている福祉作業所のスタッフ、建物のリノベーションに興味がある方、廃材利用で何かをしたい方など、全国からさまざまな方が参加され、研修で出会った方同士の新たなつながりが生まれている。廃材活用に興味を持って、何かを始めようとしている人が、ここのところ、とても増えてきているようにも感じている。

廃材から生まれてくるさまざまなモノ

4年ほど前、岡山県立大学のデザイン学部と一緒に廃材写真のゲームカード（廃材ゲームカード）をつくったのだが、これは今ではさまざまな場面で大活躍するツールとなっている。今年度は高知県立美術館バージョンが生まれる予定だ。拙著『クリエイティブリユース』もこの廃材ゲームカードも、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスという、多くの人々がこれを利用できるようなオープンな著作権の考え方を採用している。

誰にも見向きもされなかった廃材が、こんなにまでいろいろなことを私たちに教えてくれて、多種多様な表現を支えてくれ、ヒトや出来事をつないでくれることに、あらためて驚く。廃材を手にとってよく観察し、工夫しながら活用することは、人の生きる喜びに直結していると思う。このささやかな社会実験をこれからも続けていこうと思っている。