珪藻アート―顕微鏡でしか見えない芸術的な世界―
- 奥 修さん/珪藻アート作家
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身近にいる珪藻
珪藻は0.005mmから0.5mmくらいの極小の藻のことで、ガラス質の殻を持っています。水のあるところならどこでもいます。例えば川、池、沼、水たまり、海、温泉でも採集できます。生活用品の珪藻土製品は珪藻の殻を焼き固めたものです。珪藻は数万種以上いると考えられており、全部、形が違います。数万種類のガラスの形、これはアートの材料に最適です。
珪藻アートの世界へ挑戦
珪藻の殻を並べて、模様を描く「珪藻アート」は19世紀中頃にヨーロッパで生まれました。当時は顕微鏡が紳士の趣味で、この希少な標本を買い集めて自慢したりしていました。珪藻を研究していた私は20年ほど前にこの「珪藻アート」を見る機会があり、あまりの小さな世界に魅了され自分でも作ってみたいと思っていました。
数年後、自分の手ひとつで仕事がしたいと思い、2007年に顕微鏡標本を販売するwebショップを開業しました。マイナーな分野なので目玉商品が必要で、珪藻アートの製作も始めました。珪藻採集から殻を洗う処理、並べる技法などはすべて自分で考えました。現在この仕事を専業としているのは世界で3人(英国、イタリア、日本)といわれています。
繊細で気を使う作業
自分の眉毛、まつげなどをシャーペンに付け、1本の毛先で一個一個の珪藻を拾います。顕微鏡をのぞきながらフリーハンドで拾ってガラス板の上に保管します。数百種類、数万個の珪藻を保管しています。小さなものは0.03mm以下で指先が震えたら仕事はできません。体調管理が重要です。睡眠、食事、作業時間帯、ストレス、健康状態、機材、道具、気流などを高度に管理します。
汚れていたらアートの価値が落ちます。チリ、ほこり対策は最優先です。外気には黄砂やPM2.5などの粒子が漂っているので換気はできません。密閉した作業室内でも衣類の脱着はホコリ発生のため不可、皮膚にも髪にも触れません。着座にも作法があり着衣も選びます。空気が動く空調・冷暖房は不可です。チリを舞い上がらせないように全ての動作に細心の注意を払います。
珪藻アートを作る作業は、材料の珪藻を顕微鏡をのぞきながら毛先でつり上げ、別のきれいなガラス板に置き、毛先で押しながら正確に配置するというものです。これはクレーンで資材をつり上げてきれいに並べていく感覚に近い感じがします。極小の建設業です。顕微鏡でのぞくアートですので1000分の1mmの操作を手作業で行いますが、呻吟(しんぎん)するほどの難しさです。数十から数百個の珪藻を0.5mmから3mm程度の範囲に配置し、樹脂で接着・封入して完成します。作品は、生物顕微鏡で鑑賞します。
完成したときは…
作品が完成すると本当にうれしいです。宝物のようです。本心は売りたくない!です。最高のものができあがったら、それは自分が欲しいものなのです。商売なので売らないわけにはいかないのですが…。お客様からの引き合いは多く、絶大な支持を頂いております。
顕微鏡を持たない方々には
書籍やwebサイトを通じてご覧いただきたいです。2冊の『珪藻美術館』という本を出しています(旬報社、福音館書店)。現在は、福音館書店のものが書店やAmazonなどで入手可能です。珪藻と珪藻アートについて幅広い知識が得られ、主な作品も鑑賞できます。珪藻アート?と興味を持たれた方は、ぜひ書籍をお手にとってみてください。
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