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2021年10月掲載

琉球ガラスは謎だらけ~沖縄ガラス工芸の歴史~

河西 大地さん/琉球ガラス史研究家

河西 大地さん/琉球ガラス史研究家
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www.kasainote.net
琉球ガラスって何?

「琉球ガラス」は、沖縄県を代表する工芸品の一つです。南国の花のように色鮮やかなグラス、珊瑚(さんご)礁の海を思わせる気泡入りのお皿など、沖縄旅行の思い出をそのままガラスに溶かし込んだような美しさがあります。

しかし、「琉球ガラスって何?」と改めて問われると、特徴や定義を言葉で説明するのは難しい。沖縄で育まれた吹きガラス工芸品、ということはできます。けれども、時代とともに製品の形は次々と変わります。また作家の個性が追求される昨今、もはや一言で琉球ガラスの特徴を示すことは誰にもできません。それなのに、一目で「琉球ガラスだ!」と分かるのはなぜなのでしょう?

琉球ガラスのルーツ

発祥については1909(明治42)年に鹿児島の商人が那覇の西町に設立した近代的なガラス工場が、技術的な起源といわれています。その後いくつかの工場が建てられ、戦禍ですべてが失われた後、復興とともに生活用品(ランプのホヤ、漬物瓶、ハエ捕り器など)の生産が再開されました。沖縄はアメリカ統治期。50年代半ばにガラス工房を訪れた米軍人らが、アメリカ本国へのお土産用にオーダーメイドのテーブルウェアを注文します。空瓶の原料色をいかしたカラフルな洋風ガラス食器は大評判で、すぐに主力商品となりました。これが、現在につながるデザイン面での琉球ガラスの源流です。

70年代には沖縄の本土復帰にともない客層がアメリカ人から日本本土からの観光客へと変わり、製品はさらにカラフルになります。90年代になると泡盛の流行とともに沖縄県民自らの食卓にも広まりました。

揺れる評価

ところで、琉球ガラスは「伝統工芸」なのでしょうか。沖縄県から伝統工芸に認定されていますが、実は国の「伝統的工芸品」には指定されていません。100年前の現物が発見されないからです。また「民芸」かどうかの評価も揺れました。60年代に民芸運動を牽引(けんいん)した濱田庄司氏や三宅忠一氏らが高く評価する一方、民芸の条件を満たさない、お土産品の飾り物だと主張する人もいました。

今、沖縄県内に約30の工房があります。年間生産額は十数億円、地域性ある吹きガラス工芸として日本有数の規模を誇ります。それなのになぜか、琉球ガラスは日本の工芸研究からはずっと見落とされがちでした。ガラス関係の本に記載があまり見られず、研究論文も乏しい。歴史に関しても多くの謎が残されたままです。たとえば「琉球ガラス」という呼称は70年代に定着しましたが、なぜそう呼ばれるようになったのか詳しいことは分かっていません。

公私混同の在野研究

私が琉球ガラスに興味を持ったのは10年前、神奈川県から沖縄本島に移住し、琉球ガラス村という観光商業施設でパート勤めを始めた時です。ある日、リサイクルショップで購入したひょうたん型の奇妙な瓶を工房へ持って行くと、熟練職人が驚きました。「よく見つけたな!これはアメリカ統治期の古い琉球ガラスだよ」。

社内向けのガラス歴史案内チラシの制作を手がけましたが、休日に調査をしたり、いつも公私混同でした。日曜日には蚤(のみ)の市や骨董(こっとう)店を巡り歩き、古いガラスを買い求めて、それが何なのかを工房で尋ねる。20個ほど自室のクローゼットに隠しておいたガラス製品は、いつしか100個、200個と増え、やがて自室から廊下にまであふれ出しました。職を離れ、収集品が2000点を超えた頃(家族にどれだけ苦労をかけたかは想像にお任せします)、『琉球ガラスの年代物コレクション』という図鑑を出版しました。「琉球ガラスとは何か」。言葉で説明できなくても現物の写真で示せると思ったからです。実際に製品を分類し並べてみると、何か伝統の脈絡のようなものが見えてきます。本書を参考に複数の工房で熟練職人が若手にレクチャーしたり、レトロ志向の新製品ができたと聞き、とてもうれしく思っています。

  • 『琉球ガラスの年代物コレクション ?沖縄ガラス工芸図鑑?』 (2018年)より(※表記は一部変更)

    『琉球ガラスの年代物コレクション ~沖縄ガラス工芸図鑑~』 (2018年)より(※表記は一部変更)

  • ガラス工房の様子(琉球ガラス村)

    ガラス工房の様子(琉球ガラス村)

  • すがすがしい最近の琉球ガラス(琉球ガラス村)

    すがすがしい最近の琉球ガラス(琉球ガラス村)

(無断転載禁ず)

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