たかがおもちゃ、されどおもちゃ!―おもちゃ病院からの報告―
- 角 文喜さん/国分寺おもちゃ病院 院長
- ■お問い合わせ先
国分寺おもちゃ病院
〒185-0004
東京都国分寺市新町3-22-23
042-304-3624
http://toy-doctor.p1.weblife.me/
国分寺おもちゃ病院とは
自宅で開院し、20年目になりました。開院してからの取扱件数は6100件超(2021年2月現在)、治癒率約95%です。「おもちゃ病院」は全国にあり、その中で「国分寺おもちゃ病院」は、他の病院とは違った、次のような特徴があります。
①おもちゃ以外の壊れた物も受付、②配送でも受付、③院長在宅時随時開院、④障がい児の遊びの支援(外部スイッチ端子取り付け・スイッチの製作販売)。
私は元々、障がい児学校の教員で、最後の職場が、障がいの重い子どもたちの「在宅訪問学級」だった関係から、おもちゃを通して「障がいの重い子の遊びの支援」を重要な活動の一つに位置づけています。障がいの重い子は市販のおもちゃをそのままでは遊べないことが多く、一人一人の障がいに合わせたスイッチを作っておもちゃに繋げる必要があるのです。
最近の来院おもちゃの特徴
プラレールやラジコン、ぬいぐるみ等のおもちゃが多いのは変わらないのですが、最近は、わが子に購入したおもちゃを孫に使おうとしたら動かなくなっていた、知り合いから頂いたおもちゃが動かない、一人暮らしのお年寄りが会話を楽しめる癒やしの人形が壊れてしまった、等が増えてきています。
「使い捨て」ではなく、物を大事に使いたいという風潮が高まっているのではと、うれしく思う一方、お年寄り向けの人形などでは、壊れてもメーカーが対応してくれないという事例も増えてきています。「ものづくり日本」といわれていましたが、今ではほとんどが中国製のおもちゃで、メーカーが修理するにも手持ちの部品がないというのが実情のようで、ドクターとして仕事があるのはありがたいのですが、少し残念に思います。
記憶に残っているおもちゃ
たくさんやってくるおもちゃの中には、記憶に残るおもちゃもあります。ある日、年配の女性が、「アストロシューター」というゲーム機を持ってきました。聞けば連れ合いが末期ガンで余命いくばくもないとのこと。「夫が購入し、昔、家族みんなで遊んだこのおもちゃを、亡くなる前に楽しみたいので治してもらえないか」とのことでした。
何とか修理が完了し、お返しすることができました。そしてすぐに1通の手紙が届きました。『娘が孫を連れてやってきて「みんなでよく遊んだね、治ったなんてすごいね!」と早速ゲームを始めました。夫と共に感謝しております』。そして後日、亡くなった後でお会いする機会があったのですが、「とても良い思い出になりました」と感謝の言葉をいただきました。「たかがおもちゃ、されどおもちゃ」、人と人との思い出を繋ぐ大事なアイテムになっていたことに今更ながら気付かされました。
これからのこと
本来、自分が楽しくてやっている活動ではありますが、それに加えて、子どもたちの目の前で治療をして原因や治療の経過を見てもらい、「物を大事にする心」と、「科学の目」を育てたいという気持ちもあったのですが、コロナ禍でそれができず入院治療が主体となってしまいました。一日も早く、元の生活に戻り、以前のような治療ができることを願っています。また、障がいの重い子どもたちが一つでも多くのおもちゃと出会い、生活を豊かにできるように支援を続けていきたいと思っています。
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