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私の体験

2018年3月掲載

フィランソロピーで温かく心豊かな暮らしを

髙橋 陽子さん/日本フィランソロピー協会理事長

髙橋 陽子さん/日本フィランソロピー協会理事長
■お問い合わせ先
日本フィランソロピー協会
〒100‐0004
東京都千代田区大手町2‐2‐1新大手町ビル244区
TEL:03‐5205‐7580
FAX:03‐5205‐7585
カウンセラーから社会貢献の道へ

フィランソロピーという言葉をご存じだろうか?もともとはギリシャ語で人間愛・博愛という意味だが、アメリカで「寄付をすること」として広がり、今では社会貢献全般を指す言葉になっている。私は、1991年より企業を中心に社会貢献の推進をしている。

それ以前は、横浜の私立中学・高校のスクールカウンセラーをしていた。生徒・保護者・教師の相談に乗ることが主な仕事である。不登校や引きこもりの子どもたちは、「どうせ自分なんか」という気持ちを持つことが多い。従って、自分にも役に立つことがある、あてにされていることがある、と感じた時、即ち、最近よくいわれる「自己肯定感」「自己有用感」を実感できた時に自信がつくことがある。一緒に魚釣りに行って魚の釣り方を教えてくれたり、車の構造を教えてくれたり。また、アイドルについて語ってくれたり。そんな時、彼らはイキイキとして私の師匠になってくれる。そうした体験を経ながら、少しずつ、自分のことを自分で認め始め、周りの人のことも見え始めるようだ。もっとも、一筋縄ではいかないことも多いが。自宅訪問をしても会ってくれなかったり、話が核心にいくとはぐらかされたり。まさに「信じる 耐える 待つ」、子育てと一緒である(笑)。

そして、もう1つ大事なことに気づいた。日本は企業の影響力が大きく、企業が変わらないと、なかなか学校や家庭も変わりにくいのではないか、子どもたちも、その中で振り回されているのではないか、ということであった。そんな折、フィランソロピーという言葉に出会い、企業も経済的側面だけでなく、社会や環境に配慮していくことがこれからの社会づくりに必要ではないか。社会の役に立つ、という実感を持つことが社員を元気にすることにもつながる、そして、そういう大人の姿を見せることを通して、子どもたちの健全な成長をサポートしたいと思い、現在の仕事を始め今日に至っている。

企業の社会貢献は社員や顧客の参画がポイント

昨今の企業の社会貢献の特徴は、社員の寄付やボランティア活動参加を心がけていることである。社員の社会貢献を、人材育成・社員研修と位置付けている企業も増えてきた。実際、普段は会わない人たちに出会い、自分とは違った価値観に触れて新たな発見をしたり、狭い自分の世界から出て、それまでの常識とは違う常識が存在することに気づいて、これまでの固定観念から解放されることも少なくない。そこから、新しい発想が生まれたり、思わぬ組み合わせから新たな事業のアイディアが出ることもある。また、IT化が進み、リアルな関係を持つことが苦手な人が増えてきた。コミュニケーション力、チームワーク力を高めることにも大いに役立つと考えられている。

当協会では、企業の社員のボランティア参加の際の、受け入れ先のNPOを探しマッチングをしたり、企業に寄付先団体を紹介したり、コーディネーターの役割をしている。社員の給与から任意で100円単位で寄付のための天引きをし、その金額に企業が上乗せして寄付をするマッチング・ギフトという仕組みを導入している企業もある。また、お客様が買い物をして貯まったポイントの一部を寄付に換える、という仕組みも始まっている。そういう企業にいい人材が集まり、顧客や株主もそういう企業を応援するという好循環が生まれることを目指している。

子どもたちの利他の心に感動

最近は、小中学校などでの「寄付育」を推進している。子どもたちが解決したいと思う課題を決め、そのために必要な資金を募金やバザーなどでの販売により集め、それをその課題解決のために取り組んでいるNPOなどに寄付をするという一連の活動である。

子どもたちは、「何とかしたい、力になりたい」という思いを持つと、ひたむきにまっすぐにがんばる。いろんな工夫をしたり、募金活動の回数を増やしたりして、目標を達成しようと努力を惜しまない。その姿にはいつも感動させられる。単に教室の中での座学だけではなく、身体・頭・心をフル回転させて、さまざまな反応にあいながら、目標達成に向けてひたすら努力する。そして素通りしたり無視する人もある中で、「ありがとう」「がんばってね」の言葉は、子どもたちを優しく強くする。利他行動は、人間が本来持っている特性であることを子どもを通して教わっている。

寄付のススメ

大人も思いやる心がないわけではないが、寄付をしない言い訳をする人は多い。明治維新以降、社会の課題解決には、国や自治体が集めた税金を使うことに慣らされているからだと思う。実際、もはや税金だけでは解決できないことを頭では理解しつつ、身体がついていかないのかもしれない。また、この団体に寄付して正しく使われるだろうか? どこに寄付していいかわからない、などなど。寄付に関しては絶対失敗してはいけない、という捉われを持っている人も多いように思う。お金の使い方ではいろいろ失敗しているのではないだろうか? 勧められてつい似合わない服を買ってしまった、株で損をした、賭け事で負ける、そういう時、きっとこういって自分を慰めているに違いない。「これは授業料」。寄付だって同じ。失敗しながら目利きになっていくのだ。また、寄付は、お金持ちや功成り名を遂げた人がするもの、と思い込んでいる人もいる。しかし、意外と、寄付をすることで自分を奮い立たせるという効果もある。自分も役に立つんだ、力を出せるんだ、という実感が勇気を与えてくれることがある。寄付の多寡(たか)ではない。これは老若男女を問わない。できれば顔の見える関係が持てる寄付先などを選ぶことが大事だ。寄付やボランティアは交流を始めるきっかけづくりにもなることも多い。

社会貢献を通して、心豊かで愉快な社会づくりを

こういう仕事をしていると、意外と楽観的になる。人間がつらいと思うのは、この先、どうなるかわからない、という不安を持つからだ。今、NPO法人だけでも5万団体以上がある。障害・高齢者・児童福祉、教育、地域活性化など多様な活動がある。優秀な若者も定年後のシニアも主婦たちも、人の役に立ちたいと思っている人が多いことに力をもらっている。寄付やボランティアが縁で、様々な団体と出会う。 困ったときはここに相談しようと考えると、「何とかなる」と思えてくる。日本人は捨てたもんじゃない。そんな人たちにいっぱい出会えることが役得だと思っている。利他行動は人を元気にするようだ。この仕事を与えられたことに感謝しながら、その輪を広げていきたいと思っている。

  • 企業の営業社員が全国会議での合間に入院中の病児のために送る人形作りをしている

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  • 企業の社員研修で、農作業をしている

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  • 中学生が近隣の商店街を1軒1軒回り募金活動をしている

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