菌糸でつながる森の秘密~阿寒の森から始まったきのこの探求~
- 新井 文彦さん/写真家
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【浮雲倶楽部 筆者HP】
https://ukigumoclub.com/
【ほぼ日刊イトイ新聞 きのこの話。(菌曜日更新)】
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@ukigumo_club
きのことは何ぞや?
きのことは、植物でも動物でもなく菌類です。菌類とは体の基本的な構造が菌糸で、胞子によって増える生物。主に、カビ、きのこ、酵母です。
正確にいうと、わたしたちが「きのこ」と呼ぶものは、胞子をつくって放出する、きのこの生殖器官の子実体のこと。では、きのこの本体は何かというと、地中や木の内部で糸状に広がる菌糸なんです。
ちなみに、カビときのこの生物的な違いはありません。目に見える大きさの子実体をつくるものがきのこ、つまり、大きさの違いだけ。知ってました?
きのこ写真家誕生!
東京から北海道へ渡って、6年勤めた会社を辞めて、フリーランスのライター・コピーライターになったぼくは、ヒマに任せて、知人が阿寒湖につくったアウトドア会社に入り浸り、ネイチャーガイドの真似事を始めました。もう4半世紀も昔のことです。ガイド中にきのこの説明をしたら好評で、そのうち、自分でもきのこが気になりはじめ、写真を撮影するようになりました。
ヒマに任せて(!)、インターネットのサイト(浮雲倶楽部)をつくり、きのこの写真をばしばしアップしていたところ、これが、糸井重里さんの目にとまり(阿寒にもお出でになりました!)、糸井さんが主催するインターネットサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』できのこの連載をスタート!
そのとき「肩書きはどうしますか?」と聞かれたので「きのこ写真家、とでもしておいてください」と答えました。連載開始翌年の2012年に、筑摩書房から初の著書『きのこの話』を出版。名実ともに、きのこ写真家となりました。
きのこはすごい!
多くの人は、きのこを食べものだと認識しています。お店に行けば多種類のきのこが売られていますし、ぼくが写真展を開くと、毎回必ず「写真のきのこが食べられるかどうか表示してほしかった」という感想が寄せられます。でも、ぼくたちも、きのこも、この地球に生を受けた同じ生きもの。生物として改めてきのこを見てみると、その外見的美しさやかわいらしさはもちろん、感動することばかりです。
もし、きのこがこの世にいなかったら、地球が今のような生態系を維持するのは不可能です。昔、生物の教科書で習った「分解者」としてのきのこは、生物の遺骸や排出物などの有機物を無機物に分解します。リグニンなど木材の難分解性物質を分解できるのは菌類だけなんです。きのこがいなければ、森は落葉や倒木だらけになっちゃいます。
また、森の樹木の九割以上がきのこと関係を持っているといわれ、地中で木の根と菌糸が菌根という器官を通じてつながり、お互いに必要な栄養のやりとりをしています(共生菌・菌根菌)。つまり、きのこは、木の子でもあり木の親でもあるんです!
菌根はいろいろな樹木とつながっているので、森の地下には菌根ネットワークが広がり、栄養だけではなく情報もやりとりしているという研究もあります。
今後の展望
きのこ写真家としてスタートしたぼくは、本やテレビ番組など、いろいろな媒体、あるいは、ネイチャーガイドとして、きのこの魅力を伝えてきました。きのこは、その昔、花を咲かせない下等植物という意味での「隠花植物」に分類されており、生物学的にはもう死語ですが、ぼくはこの言葉が好きなんです。
いつしか、きのこ以外の隠花植物にも興味を持つようになり、粘菌(変形菌)や、コケや、地衣類などの撮影にも力を入れるようになりました。森を歩くとき、地面から倒木から樹木の上までチェックする場所が多すぎて、なかなか進めないほど。これからは、森全体の生態系も意識して、「隠花植物」の魅力をさらに伝えたいと思っています。
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