寺に広がる宇宙~「星教分離」のプラネタリウム~
- 春日 了さん/證願寺住職・プラネターリアム銀河座 館長
- お問い合わせ先
プラネターリアム銀河座
東京都葛飾区立石7-11-30 證願寺内
https://gingaza-2019.amebaownd.com/
はじめに
銀河座は、寺の中にあるプラネタリウムです。寺にプラネタリウム?と驚かれるのが普通でしょう。これには深い訳があるのです。
天文学者になりたくて理数系が強かった私の進学を巡って反対する人間がいました。それは父でした。お坊さんになるのだから、仏教の大学に進むのだと強気。「カエルの子はカエルだ。寺に生まれたのだからお坊さんになるのだよ」。「カエルの子はおたまじゃくしだよ」。「屁理屈を言うな」。個人の適性や才能を考えず、ただ寺の子は坊主となり後を継ぐのが運命だと決めつけていました。さまざまな親子の戦いがあり、インド哲学としての仏教を冷ややかに学ぶことで合意しましたが、私は1、2年で科学系の大学に戻る予定にしていました。
仏教などという古式なもので人生の解決などができるはずがない、というのが私の考えでした。寺のではなくインド哲学としての仏教を学び始め1年がたつ頃に私の心に大きな変化が起きたのです。「仏教で人生が変わるのだ」と。
仏教なんて役に立たない
住職をするようになると、寺に集まる人々が仏教の話を集中して聞いていないことに気が付きショックでした。ほとんどの人は仏教を聞いてそれが役立つとは思ってもいないのです。だから寺の本堂でお坊さんがどんな話をしようと人生が変わるなんて考えてもいない。面白いかつまらないか程度は聞いてみるが、仏教で人生が変わるなどという発想や知識がない。私は大学で学び、それがすごいものだと知ったのですが、伝わらないもどかしさを感じていました。
「仏教はすごく有益だが、日本のお寺やお坊さんに魅力がなさ過ぎる」
仏教なんて聞きたくない
自分が袈裟(けさ)衣の「コスプレcosplay」↓「cospray(祈る)」をして本堂の中でいかに刺激的な話をしようと、相手の心には通じないことが最初の2年で明確になりました。大多数の方は仏教など求めていないのです。そういう人に聞いてもらうにはどうすればよいか?が私の大きな課題となりました。
何故、寺にプラネタリウムか?
話の内容にいくら工夫を凝らしても、お坊さんという見かけが彼らの集中を遮ると理解しました。そこで、思わず話に聞き入ってもらうにはどうしたらよいかと「話す環境」を熟考してみました。
「あっという間に思わず引き込まれる」、そういう体験を思い出してみました。
すると、子どもの頃から通ったプラネタリウムがまさにそれだと思い当たりました。青い空が夕焼けに染まり、夜になると星が出てくる情景を数分でやってのけますが、心が大空に吸い込まれるような気持ちになり没入感に浸る。この気持ちは大人も同じはずだと。
プラネタリウム探し
私はそもそも宇宙物理専攻を目指していましたが、父親の頑固さからインド哲学を学ぶことになりました。大学でインド仏教のすごさを知ってからは、日本の寺は何をしているのだとあぜんとしましたが、住職となったからには仏教のすごさを伝えなければいけない。
プラネタリウムの装置さえ導入できれば解決すると思い込みました。檀家代表に説明するのは大変ですが、理解してもらえると直感しました。装置は何千万円とするので、全国を回り中古か、ただ同然の機械を探しました。知恵を使って探せばあるところにはあるもので、ついに見つけたのです。
プラネタリウム導入
行脚の末、ペンタックスというカメラ会社が製造したプロ機の試作機が1台見つかり、会社と何回も交渉して譲り受けることになりました。この間の2年間、寺の檀家役員ほか12名でプラネタリウム導入を審議しました。結果、反対1名のほかは賛成となり導入が正式に決定。1996年待ちに待った機械がやってきました。
プラネタリウムで仏教を展開
寺のプラネタリウム空間に足を踏み入れると直径8m、高さ6・5mの巨大なドーム空間に奇異な驚きを感じます。リクライニングのいすに座り、夕焼けから星々が出てきて夜空になるとみな息をのみ集中する。そこで仏教の話だと気づかれないようなアプローチで話を始めます。よくあるお坊さんの有難い話ではなく生活に密着したもので、悩みやストレスを消すには、という内容が絵や動画で星空に展開する。仏教を正確に学んだ者には、有難い不思議な神話や心温まる感動で涙を誘うという薄い話術は意味がありません。
星教分離の一般向けプラネタリウム
寺の檀家のために集中可能な15分以内の仏教の話をしますが、毎月2回だけ一般公開もしています。こちらは宇宙や科学について情熱を込めて説くもので仏教色はなく、まさに「星教分離」となっています。宇宙の神秘は仏教の説くところと一致する!などと言えば怪しい新興宗教となってしまうからです。
天文学者になりたかった私の第二の人生の展開です。かなり深いことを知識がない人にも理解してもらえるように話しています。プラネタリウムには、全国各地からたくさんの来館者がやってきます。九州や愛知県から毎月訪れる人もいます。
プラネタリウムの海外展開
毎年7月7日にはイタリア・ミラノ最大のプラネタリウムで、私の宇宙と日本紹介の作品がイタリア人の解説で上映されています。在日本国領事館後援文化事業となって12年がたちます。かつて留学したイタリアに今の自分が恩返しできることが喜びにもなっています。
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