連載コーナー
本音のエッセイ

2026年7月掲載

茶道はもはやスポーツ⁉

田中 仙堂さん/大日本茶道学会会長

田中 仙堂さん/大日本茶道学会会長
東京大学大学院で社会学を学んだ後、曾祖父田中仙樵が創立した大日本茶道学会の運営に関わり、父仙翁の跡を継いで、2017年、会長となる。茶道の教習の他、茶道普及の執筆・講演にも意欲的に取り組む。著書に『お茶と権力』(文春新書)、『茶の湯名言集』(角川ソフィア文庫)等。

茶道に関心があるという人々を茶席に招くことがある。しかし、正座をすると足がしびれるから嫌だというレベルを通り越して、足を崩しても、畳の上に居続けること自体が苦痛になっている姿を見ると、畳と茶道に未来はあるのか、という不安がよぎるのは、私が茶人であるからだろうか。

しかし、それは、自分が畳の上に座れるのは、身体が柔軟な子どもの頃に正座をする機会があったことを忘れての思い上がりであろう。

畳の部屋が、団地にはあっても、マンションでは消滅しつつある今日、畳の上での歩き方・座り方は、日常と違った空間での身体の動かし方であるという点で、水泳、スケート、スキーといった「運動」の側に区分した方がよいのだろう。それぞれのスポーツをしたことのない人をいきなり水の中に放り込んだら溺れるし、スケートリンクに立たせたら転び、雪の斜面からは滑り落ちてしまう。いきなり畳の上に座らせようとしたら、相手が困るのは当たり前だ。

畳の部屋の上での「運動」に関しても、準備が必要なのは当然と思えなかったのは、ついこの間まで、日本人すべてが当たり前にできていた運動で、それを「できますか」などと聞くのが失礼だったからだろう。しかし、正座はできても、手をつかないで立ち上がってと言われたらどうしたらいいのかわからなくなった人を前にして、かつて日本人が無意識に体現していた「畳の上での身体の動かし方」が今や失われていることを思い知らされた。

茶道の教習には、畳の上での身体の動きを教えるスポーツの側面があるということに、われわれ茶人はもっと自覚的にならなければいけないと思っている。

大学の後輩たちが、旅館の座敷を懇親会に使っているのに参加したことがある。修学旅行用に作られた古い旅館の座敷は、掘りごたつ式でもなく、椅子の用意もない。主催者は、途中で席替えが容易で、互いの距離が近くなる座敷が、懇親にはふさわしいと座敷を選んでいた。

畳は、ゴロリと寝転がってくつろげるクッションであった。普段のようにあまりリラックスしてほしくないから、茶席では、作法を定めたという言い方もできそうだ。畳がリラックスさせてくれることを知らずに、作法だけが気になる場所になったら、畳が好まれなくなるのは必然だ。すると、畳の未来を危うくしているのは、畳を最も必要としている茶人ということにならないか。

現代の硬直した身体を、もう一度畳という空間に馴染ませていくことも、これからの茶人の役割と考えている。

(無断転載禁ず)

連載コーナー

Wendy 定期発送

110万部発行 マンション生活情報フリーペーパー

Wendyは分譲マンションを対象としたフリーペーパー(無料紙)です。
定期発送をお申込みいただくと、1年間、ご自宅のポストに毎月無料でお届けします。

定期発送のお申込み

マンション管理セミナー情報

お問い合わせ

月刊ウェンディに関すること、マンション管理に関するお問い合わせはこちらから

お問い合わせ

関連リンク

TOP