弱者救済は損?情けは人の為ならず
- 森永 康平さん/闘う経済アナリスト
- 証券会社、運用会社にてアナリストとして株式市場や経済のリサーチ業務に従事。2018年、金融教育ベンチャーのマネネを創業。現在は国内外のベンチャー企業の経営にも参画。アマチュアで格闘技の試合にも出場している。著書に『スタグフレーションの時代』等。
最近は毎日のように闇バイトのニュースが報じられている。私の会社がある東京都練馬区でも、生まれ育った埼玉県所沢市でも強盗の被害が報じられており、とても胸を痛めているのだが、正直なところ闇バイトによる強盗事件が頻発することは想像していた。
日本はこの30年、ほとんど経済成長もすることなく、格差だけが広がっていく状態が続いていた。IMFが公表しているデータを見てみると、この30年間における日本の名目GDP成長率はG7では最下位、世界全体でみても下位グループに属している。よく資本主義を採用している国では経済成長の副作用として格差が拡大するという事実があり、それを基に考えれば日本は経済成長をしなかった代わりに、格差のない一億総中流の社会が出来上がったと考えたいところだが、実際には日本は国内の経済格差が拡大している。
OECDが公表しているデータによると、日本の相対的貧困率は米国や英国を上回っているのだ。拡大する格差を放置しておけば、治安が悪化し、いずれは貧困層が富裕層から物理的に富を収奪しようとする事案が増えることぐらい、誰でも想像できることだろう。
私は経済を専門としているため、よく経済政策について情報を発信している。ネット上で情報を発信すると賛否両論、多くのフィードバックを頂戴する。私の考えは「政策によって救える命があるのなら救うべき」という発想のため、見方によっては弱者救済を訴えているように見えるようで、なかには強烈な反対意見をもらうことがある。それは、「貧困層は努力不足で現状があるのだから自己責任だ」というものだ。
たしかに、努力の末に豊かな現況を勝ち取った人からすれば、政策によって貧困層が救われるというのは不公平に感じるのかもしれない。しかし、「情けは人の為ならず」という言葉を思い出した方がいい。この言葉は「情けをかけることはその人の為にならない」という意味だと勘違いされることが多いが、正しくは「情けは人の為ではなく、いずれは自分に返ってくるから、誰にでも親切にした方がよい」という意味だ。
そもそも、国が経済政策を実行する際に誰かのお金を流用することはなく、弱者が救われたからといって、その原資を強者が負担させられるということはない。また、仮に弱者に経済的余裕ができれば、その人たちが強者の顧客となり、強者の所得がさらに増える可能性もある。
連日報道される闇バイトに関するニュースを見ていると、経済政策を考えるにあたっては、根拠のない損得勘定ではなく、冷静で中長期の視点が求められることを改めて認識する次第だ。
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