連載コーナー
本音のエッセイ

2024年8月掲載

止まらない好奇心。その先は…

丹治 俊樹さん/ 博物館ライター、日本再発掘ブロガー

丹治 俊樹さん/ 博物館ライター、日本再発掘ブロガー
好奇心の赴くままに、全国の知られざる博物館を発掘する博物館マニア。現在までに1300カ所の博物館を取材。本業であるフリーエンジニアのかたわら、本の出版、テレビなどのメディア出演、自身の書籍やブログを通し日々博物館の情報を発信している。
 

好きなことに没頭できることは、人生においてこの上ない幸せなことだと思っている。

 

30歳のとき、名古屋にある横井庄一記念館を訪問したことを機に、博物館の魅力にハマった私。終戦後、まだ戦争は終わってないとグアムで28年間ひとり生き抜いた横井庄一さん。自宅の一部を開放した記念館では、妻の美保子さんが2時間近くにわたり横井さんの生きざまを語ってくれた。美保子さんと話し続けた時間は、まるでおばあちゃんの家にいるような不思議な感覚だっただけでなく、自分の人生に彩りを与えてくれたような、すごく充実した時間を過ごせたことが今も忘れられない。

 

それからいろいろな博物館を探して巡ってみると、日本には想像以上にさまざまなテーマを扱う博物館があることに気づく。水道、トイレ、災害などのテーマでは、今の生活が先人たちの努力によって成り立っていると思わされ、個人が運営する博物館となると、館長さんから直々に展示について解説してくれるだけでなく、時にはお互いの人生話に花が咲くこともある。

 

老後の第2の人生で博物館を開いた方もいれば、偉人の功績・郷土の歴史を語り継ぎたいなど、博物館を開くきっかけはさまざま。館長さんは皆がエネルギッシュであり、そのまっすぐな生き方に感銘を受けるだけでなく、勇気をもらえる。巡るたびに新たな出会いや発見があり、いろんな人生に触れ合えることが楽しすぎて巡らずにはいられなくなってしまった。それと同時に、これだけ魅力的な博物館があるのに、それが世に知られていないことがあまりにもったいないと感じ、ブログや書籍などを通して発信するようにもなった。

 

自分は凝り出すとなりふりかまわない性格のようで、週末は家にいることはほぼなく、博物館を巡るために車を購入し、より博物館を巡れるフリーランスのシステムエンジニアにもなった。

 

とはいえ、没頭するにも程度が大事だとも痛感している。没頭しすぎてしまうと、それが幸せなのか、あるいは自分をどんどん苦しめているのではないかとも思えてくる。博物館を巡ることに没頭するあまり、巡り続けていないと不安になり、巡っていないと自分のアイデンティティーが失われてしまうような、そんな強迫観念に苛まれることもある。好きで巡ってはいるのだが、時折、義務感で巡らざるを得ない状況を自分でつくってしまっているのかとも思ってしまう。

 

とはいえ、10年近くこうした生活を続けていると、もう博物館を巡ることが日常となっており、「なぜ博物館を巡っているのか」と言われると、もはや自分でもよくわからない。でも、ここまできたら、国内にある行きたい博物館には行ききらないと納得できない。

(無断転載禁ず)

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