連載コーナー
本音のエッセイ

2023年5月掲載

「尖った面白い人材」が減ったワケ

井上 久男さん/経済ジャーナリスト

井上 久男さん/経済ジャーナリスト
1964年生まれ。九州大学卒。88年NEC入社。92年朝日新聞社に転職。2004年に退社してフリーの経済ジャーナリストに転じ、現在は自動車産業を中心に企業経営を取材している。主な著書は『自動車会社が消える日』『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』。

経済ジャーナリストという仕事柄、企業のトップにインタビューすることが多い。最近は話を聞いていて、尖った面白い経営者が減ったと感じることが多い。要は、こじんまりと、まとまってはいるが、とにかく話す内容がつまらないのだ。

その理由をいくつか自分なりに考えてみた。まずは、人間としての器が小さな人が増えたことが影響している。ビジネスパーソンとしての「器」は、失敗をリカバリーする過程や異質な価値観の中で揉まれる経験から醸成されるものだと思う。

しかし、最近の経営者の中には、長年トップのそばに仕える秘書室や経営企画室が長い人も多く、ビジネスの最前線での経験が乏しい人をよく見かける。そうした人材は、経歴はご立派でも地べたをはった経験が乏しい。

続いて、発言をつまらなくしているのが、経営トップに自分の言葉でしゃべらせない風潮が高まっていることだ。大企業の経営者になると、インタビューの前にコンサルタントからメディアトレーニングを受けて、記者の質問に対して、無難に答える訓練を受けていることがある。

こういうケースでは面白いインタビューができることはまずない。トップの発言は重いので、その影響や失言を恐れての対応であろうが、それでは伝えるべきことも伝わらないのではないか。

実はこうした失敗や摩擦を極度に恐れる風潮が日本企業の競争力を落としている、と筆者は強く感じている。失敗を恐れるあまり、丹念な計画作りに力を入れるものの、それに時間をかけ過ぎるため、いざ実行の段階で世の中の情勢が変わり、計画自体が陳腐化してしまうケースがある。

さらには摩擦を嫌って組織のマジョリティと意見が違う人材を排除する傾向にもある。能力、意欲を鑑みずに発想が違う人材を「扱いにくい」と言って使いこなさない結果、企業の「引き出し」の数が減る。すなわちそれは新たな商品やサービスの開発の芽を自ら潰しているに等しい。

企業は最近、ダイバーシティ(多様性)が重要と唱え、女性や外国人の登用を重視するが、真の多様性とは価値観の多様性のことを指し、意見や考え方の違う人をうまく巻き込んで組織の活性化につなげることだ。

人間として器の小さなトップが、自分と同じ価値観を重視し、しかも器は自分を超えない人材を後継や要職のポストに就け、そうした人材がまた同じように次の人材を選ぶ「負のスパイラル」が起きている結果、企業から「尖った面白い人材」が減っていると思えてならない。

(無断転載禁ず)

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