きっとうまくいく
- 川内 イオさん/稀人(まれびと)ハンター
- 1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を追う稀人ハンター。自由な生き方、多彩な働き方を世に広く伝えることを生業とする。2022年11月28日、『稀食満面 そこにしかない「食の可能性」を巡る旅』(主婦の友社)出版。ほか著書6冊。
顔には出さなかった。でも、胸のうちで「ヤバいよ、ヤバいよ……」と震えていた。昨年の秋、取材で2週間ほど滞在したインドでのことである。
僕は写真家の齋藤陽道さん、映像作家の齋藤汐里さん、ビデオグラファーの角野杏早比(あさひ)さんと計4人で、インド最北に位置するラダックにいた。旅の目的は、ラダックの小さな町フェイにある学校「セクモル オルタナティブスクール(セクモルスクール)」の設立者であるソナム・ワンチュクさんのインタビューだった。
ソナムさんは、インドで大ヒットして日本でも話題を呼んだ映画『きっと、うまくいく』の主人公のモデルになった著名なエンジニアだ。映画のラストシーンには主人公が作った学校が出てくるのだが、それもソナムさんが1998年に開いたセクモルスクールをモチーフにしている。
この学校について調べると、子どもたちは野菜を無農薬栽培したり、馬や牛の世話をしたり、土壁で小屋をセルフビルドしたりと自分の手を動かしながら学ぶ独特のカリキュラムだった。
『きっと、うまくいく』があまりにも面白くて心を鷲づかみにされた僕は、ソナムさんの取材をしたいとあちこちで話していた。すると、3人が「一緒に行く!」と名乗り出てくれたのだ。
とはいえ、見知らぬ日本人が多忙なソナムさんの日程をおさえるのは難しい。どうしようかと思っていたら、ラダックに詳しい旅行作家、山本高樹さんが近所に住んでいることが判明。ツイッターでメッセージを送り、一度顔を合わせて事情を話すと、日本語堪能なラダック人を紹介してくれることになった。幸運は続き、アポ取りを頼んだその彼の尽力で、7月には「9月24日から27日のどこか」と約束を取り付けた。
ところが、である。意気揚々と9月21日にラダック入りしたのに、それからまったく日程が定まらない。3人から何度も「いつになりそう?」と聞かれ、そのたびに「まだわからない」と答えた。インド往復と2週間の旅費はバカにならない。僕は3人に「さすがインドだよね〜」と余裕を装いながら、内心では「ドタキャンだけはやめて!」と日本とインドの神様に拝み倒していた。
迎えた9月26日の夕方、必死に先方とやり取りをしてくれていたラダック人から電話があった。「明日9時に学校で」という彼の言葉を聞いた瞬間、二人羽織のように覆いかぶさっていた悪霊が祓われたみたいに、肩が軽くなった。
脳裏に、映画のタイトルが浮かんだ。
「きっとうまくいく」
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