連載コーナー
本音のエッセイ

2022年12月掲載

「何カ国訪れたか」は意味がない

蔵前 仁一さん/旅行作家

蔵前 仁一さん/旅行作家
1980年代からアジア、アフリカを中心に世界各地を旅する。インド旅行の体験をイラスト入りでまとめた『ゴーゴー・インド』(凱風社)でデビュー。93年〜2011年まで発刊された旅行雑誌『旅行人』を主宰。近刊に『旅がくれたもの』(旅行人)。

旅行記を書いている職業柄、「これまで何カ国訪れたことがありますか?」とよく聞かれる。

おそらく質問する人は、僕がどれくらい広く世界をまわっているのかを聞きたいのだと思うが、実はこの質問はあまり意味がない。100カ国訪れたことがあっても、入国スタンプが100個集まるだけで、100カ国のことに詳しくなるわけではないからだ。

数年前に読者らしき男から電話がかかってきて、何カ国行ったかと聞かれたことがある。僕は自分が何カ国行ったかどうでもいいので正確に数えたことはない。たぶん70から90カ国の間じゃないかと答えたはずだ。すると男はうれしそうに「私は180カ国を超えた」という。わざわざ電話してきていうぐらいだからよほど自慢だったのだろう。

外国の入国スタンプを集めているなら何カ国訪れたかが重要だろうが、香港に行っただけで押される中国の入国スタンプがあっても、中国を見たことにはならない。僕はイベリア半島の先端にあるイギリス領のジブラルタルに行ったことがあるが、そこに行ってもイギリスのことはわからない。

実は僕はロンドンに行ったことがある。航空チケットを買うために2泊した。そして空き時間に大英博物館を見物し、安い中華料理を食べた。一応イギリスへ行ったことになるが、これではロンドンでさえ何もわからない。

あちこち旅していると、違う国へちょっと入国することは珍しくない。タイのビザを取るのに、マレーシアに一泊だけしてタイにとんぼ返りしたことは何度もある(これをやる旅行者は多い)。アルバニアで次の町へ行くバスに乗ったら、バスは国境を越えてコソボへ入った。そこで入国スタンプを押され、しばらく走ってまたアルバニアへ戻った。なんでコソボへ入ったんだと聞くと、アルバニアの道路はひどくて時間がかかるので、コソボ経由の方が早いんだといわれた。これだけでも訪問国数は増えるのだ。それをカウントしても意味はない。

逆にこれまで訪問したアジアの国々はほとんど複数回訪れている。インドはたぶん数十回行き、滞在期間も2〜3年ぐらいだが、それでインドがわかったかというと、ますます謎は深まるばかりだ。だから、こういう数字もまったく自慢にならない。

というわけで、訪問国数が多く、海外の滞在期間が長いことにたいした意味はない。一応の目安として聞きたいのは僕も理解しているが、自慢しにわざわざ電話するのはやめよう。

(無断転載禁ず)

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