連載コーナー
本音のエッセイ

2022年11月掲載

それ…、いらないです…。

林 伸次さん/バーテンダー、作家

林 伸次さん/バーテンダー、作家
1969年生まれ。徳島県出身。97年に渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」をオープンする。著書『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか?』『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』他多数。

僕は、渋谷でバーを24年間経営しておりまして、今回、本音を書いていいということなので、ちょっと言いにくいけど、思い切って書かせてください。

『置物や絵のおみやげはいらないです』

たまにいらっしゃるんです。なんか高そうだけど、この絵の作者、誰なんだろうって感じの絵を持ってきてくれまして、「これ、良いでしょ。このお店に合うかなと思って」って仰る方。どこかの画廊で見かけて、「これは良いなあ。あのバーの壁なんかにすごくいいんじゃないか」って感じてくれたのでしょう。お気持ちはすごくありがたいのですが、そういう絵って、まずお店に合わないことが多いです。「いやあちょっとうちのお店にはどうも合わないし」って言いづらいし、ぜひ、やめていただけると助かります。もちろん置物も同様です。ありますよね。スナックや居酒屋にいくと、お客さんが持ってきた置物でいっぱいになって、雑然とした雰囲気になってるお店。ああはなりたくないんです。もし絵や置物を持っていきたくなったら、その分、お店でたくさんお金を使っていただいた方が助かります。

『こういうメニューやってみたら良いんじゃないかなという提案いらないです』

例えば、「このバー、コーヒーも置いてくれたらいいのに。エスプレッソマシンで小さいのあるじゃない。ああいうのをここに置いとくだけでいいでしょ。ちょっとワイン飲んだ最後にエスプレッソ飲んで帰ると良いと思うんだけどね」みたいなことを仰ることってあるのですが、すいません。お店側の人間としては、そういうメニューやサービスって、何度も何度も検討してみているんです。他のお店はお客さま以上に回っているし、こういうメニューが流行ってるんだ、うちもやってみようかなっていうのは、お客さまよりも何年も前に思いついてます。でも、やってないのは理由があります。例えばバーにコーヒーを置いてしまうと、1杯500円のコーヒーだけでPCを開いて何時間も滞在するカフェ扱いするお客さまが出てくるんです。お酒だけだとそんな仕事場にするお客さまっていないんです。そういうメニューやサービス、ほとんどが検討してます。すいません、思いつきで言わないでいただけると助かります。

でもこういう本音、実際のお客さまの目の前では言えないんです。「この絵、良いですねえ。でもうちの壁弱いんですよねえ」とか「コーヒー、良いですよねえ。考えてみようかなあ」ってなるんです。

(無断転載禁ず)

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