連載コーナー
本音のエッセイ

2022年9月掲載

唯一の目的は、地球の環境の未来のため

中村 元さん/水族館プロデューサー

中村 元さん/水族館プロデューサー
鳥羽水族館副館長を経て水族館プロデューサー。新時代の展示開発を追求して、サンシャイン水族館、北の大地の水族館他で奇跡的な集客増に成功。水族館文化発展のためにトークライブを定期開催、水族館に関わる著書は『中村元の全国水族館ガイド』など20冊を超える。

水族館や動物園で人々に愛され癒やしを与えてくれる生きものたち。自然の海で野生のアシカやペンギンたちと会ってきた私にとっては、捕らえられ自由を奪われた水族館の彼らが哀れでならない。それが水族館プロデューサーである私の偽らざる本音だ。

よく、水族館で飼われていれば、外敵には襲われず、餌も十分に与えられ、病気になれば獣医さんが診てくれて、さらには繁殖までできるのだから、自然の海より気楽で安心だという主張を聞くが、それは人の価値観による思い込みだ。野生生物にとっては、天敵から逃げ、毎日何百キロも泳いで餌を求め、時には嵐で空腹に耐える、そんな日々こそが自由で充実した人生、それが生きがいだったから絶滅せずに今に至った。それが水族館の狭い空間に一生閉じ込められては、終身刑の囚人と変わらない。

個人的心情としては、水族館や動物園での繁殖推進も、野生生物を閉じ込める罪をその子孫にまで重複して負わせることではないかと罪の意識にさいなまれる。また、動物園は子どもの教育のために必要という主張も、それなら命ではなく映像や動くリアルロボットでも十分だと思っている。もし、子どもの教育だけのために水族館や動物園が必要だという理屈しかないならば、断固として水族館や動物園は不要と主張するだろう。これも偽らざる本音。

しかし、だからこそ私は水族館プロデューサーとして、水族館の展示開発にたずさわっている。野生の生きものたちが水族館に閉じ込められている唯一の目的を最大にするためだ。唯一の目的とは、彼らが展示されることによって、未来が危ぶまれている彼らや地球の環境をより良い方向に向かわせるためだ。彼らと会う人々を野生生物と海の未来のために社会を変える社会人に育てたいのだ。

命の展示のインパクトは強いが、漫然と飼育しているだけでは人々に伝わる情報も影響力もあまりに薄い。そもそも水族館に足を運んでもくれないだろう。そこで、魅力的で水中感たっぷりの水槽展示を創り、野生生物の活き活きとした日常を再現させて人々の好奇心を立たせる。それが水族館プロデューサーの仕事だ。

私は常に『命を展示する覚悟』を大切にしている。展示とは見せて伝えることだ。生きた命を見せることによって、どれほどの情報をどれだけ広く伝えられるかという効果を最大とするのが、囚われの彼らに対して自らに与えた唯一のミッションなのだ。

(無断転載禁ず)

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