連載コーナー
本音のエッセイ

2022年8月掲載

実は似ている、料理と教育

土屋 敦さん/料理研究家・野外教育者

土屋 敦さん/料理研究家・野外教育者
1969年神奈川県生まれ。「いもいも」共同代表。慶應義塾大学卒業後、出版社勤務を経てフリーの編集者・書評家に。佐渡島に移住してさまざまな食材に出合い、料理研究家となるが、50歳を機に教育の道に進む。著書に『男のパスタ道』ほか多数。

長年、料理研究家として活動してきたが、50代に入ってから教育の現場に深く関わるようになった。母校の高校生にゼミ形式で料理を教えるようになり、同時に小中学生向けのまなび場である「いもいも」の運営にも関わるようになった。「いもいも」は栄光学園中学高等学校の数学教師の井本陽久を中心に立ち上げたまなび場。井本は、数学の授業や教材の素晴らしさのみならず、生徒ひとりひとりのありのままを徹底して認めていく姿勢でも知られ、NHKのテレビドキュメンタリー『プロフェッショナル 仕事の流儀』などでも取り上げられている。

さて、その「いもいも」で、元気いっぱい個性いっぱいの子どもたちと関わるようになり、料理と教育って本当に似ているな、と思うようになった。

私が料理を作るときにもっとも大切だと思っているのは、「食材はすべて違う」と意識することだ。品種は同じでも、株の特性、土壌、育ち方、気候などの複雑な影響を受け、味や香りに違いが出る。有史以来、完全に同じトマトはひとつも存在しない。だから、まずこの世界にたったひとつしかないトマトを大切に思い、香りを嗅ぎ、味を味わって、そのトマトをもっとも生かすにはどうしたらいいのかを考えて調理の方針を決めるのだ。世間では甘く旨味が強いトマトを評価する傾向があるが、私にとっては酸っぱく青い香りのトマトも最高の食材だ。

一方で、すべてのトマトが工業製品のように画一的であるほうが都合のよいと考える人たちもいる。加工食品メーカーやチェーンのレストランなどは常に一定の質のものを提供する必要があり、食材ひとつひとつの個性などむしろ邪魔なものだろう。

教育もそれに似ている。学校や塾の多くが画一的なカリキュラムを提供する一方で、一部の教育者は子どもひとりひとりの違いに注目する。たとえば井本陽久は、同じ子どもはひとりもいない、それぞれがかけがえのない存在で、皆それぞれに素晴らしいという強い信念を持っている。だから「いもいも」には教育理念がない。縁あって出会えた子どもたちが最高に生き生きとするためにはどうすればいいのか、その子自身を出発点にして考えていくからだ。

さて、「いもいも」は、2022年9月、東京都檜原村にフリースクールを開校する。野山で学ぶ斬新な野外活動型の「学校」である。佐渡島の山奥で生活し、野外活動にも深く関わってきた私の経験も生かし、自然のなかで教育をゼロから考え直し、構築していくつもりだ。唯一無二のかけがえのない存在である子どもたちと一緒に、いったい何ができるのか。今からわくわくしている。

(無断転載禁ず)

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