連載コーナー
本音のエッセイ

2022年7月掲載

ウイルス学者の独り言

高田 礼人さん/ウイルス学者

高田 礼人さん/ウイルス学者
1968年東京生まれ。北海道大学教授。エボラウイルスやインフルエンザウイルスなど、人獣共通感染症を引き起こすウイルスの生態・感染メカニズム解明や診断・治療法開発のための研究を行っている。研究のフィールドは世界各地に及ぶ。著書に『ウイルスは悪者か』。

コロナ騒動は今年で3年目になる。野生動物(恐らくコウモリ)からやってきたこのコロナウイルスは、新しい環境(ヒトという宿主)で右往左往しながら、当面はヒトの間で受け継がれるだろう。その後は、ヒトに適応しきれずにいなくなるか、インフルエンザウイルスあるいは普通の風邪ウイルスのようになるか、まだ分からない。

このウイルスへの対応には、やりすぎの部分がいろいろあったように思う。例えば、感染して亡くなった人の扱い。パンデミック当初、エボラウイルス(致死率最大90%)の場合と同じような扱いをされていたが、このコロナウイルスに対して、そこまで必要だとは思えない。水際対策も過剰であった。国内で毎日何万人も新たに感染している状態の中で、空港検疫で見つかる毎日数十人程度の陽性者を見つけ出しても意味があるだろうか。外国人のみを入国禁止にしていた時期もあったが(留学生がほとんど来日できなかった)、まったく意味不明であり、将来的な負の影響は計り知れない。

ある超大企業の社長が、PCR検査の拡大を主張する文脈の中で「感染者をあぶりだすために」という言葉を使った(本音が出た?)のには悲しくなった。普通に生活していても誰でも感染するようなウイルスなのに(しかも、ほとんどが軽症か無症状)、感染者をまるで犯罪者扱いだ。その社長は大金持ちだから、ほとんど他人と接触しない生活が可能なのだろうけど…。そういう人がいる一方で、自分が感染して重症化する心配よりも、軽症や無症状で陽性になったら職場や濃厚接触者の人に迷惑をかけてしまうことを心配する人も多いと思う。私は、良くも悪くもそのような心理から生じる行動規範や自己抑制や同調圧力がいわゆるファクターXの正体の1つであると思う。

このコロナウイルスと人類との今後の関係において、集団免疫の獲得が鍵となる。集団免疫は多くの人が実際に感染するか、ワクチンを接種することによって成立する。ワクチンを接種してから感染したら、さらに強い免疫ができる。逆もそうだ。もうそろそろそういう状態になってきている気がする。ちなみにアフリカでは、ワクチン接種率が非常に低いが、抗体保有率は高く、多くの人が自然に感染することによって免疫を獲得したようだ。世界中でそうなってしまえば、多くの人が同時に一気に感染するといったパンデミック時のような状態には今後はならないと予想される(インフルエンザのように途中でワクチンを最新の流行株に変更する必要は出てくるかもしれないが)。

変異ウイルスが出現しても騒ぐことではない。ヒトという新しい環境の選択圧のもと、このウイルスは病原性や伝播力が少々上がったり下がったりしながら、行きつくところまで行くのである。行きつくところとは、その消滅かヒト(他の動物もあり得る)との共存である。それは、我々がすでにインフルエンザや風邪のウイルスとの歴史の中で経験してきたことなのである。

(無断転載禁ず)

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