私はホラーが好きではない
- 五味 弘文さん/お化け屋敷プロデューサー
- 株式会社オフィスバーン代表。1992年から、『赤ん坊地獄』、『怨霊座敷』など100本以上のお化け屋敷を制作。お化け屋敷に “ストーリー”と“ミッション”を加え、大人が楽しめるエンターテインメントに生まれ変わらせた。著書は『お化け屋敷になぜ人は並ぶのか』など。
お化け屋敷プロデューサーという肩書で仕事をしていると、さぞかしホラーが好きだと思われることが多い。
しかし、私はそれほどホラーが好きではないのだ。もちろん、嫌いということではないので、一般的なホラー映画は見ているのだが、ホラー映画なら何でも見ます、心霊スポットに行くのが好きです、というようなことはない。だから、私よりもホラー好きな人は、世の中にたくさんいると思っている。
では、なぜ私がお化け屋敷を作っているかというと、お化け屋敷に携わるようになった頃に気がついたあることに、そのヒントがあるように思える。
私はかれこれ30年近くお化け屋敷に携わっているが、最初の頃はもちろん右も左も分からず、さまざまな試行錯誤を繰り返していた。そういう中で、不思議な光景を目にするようになった。
お化け屋敷の中、あるいは出口で見ていると、お客様の多くが悲鳴を上げた後に笑い声を上げるのである。その様子を見た私は、自分の作っているお化け屋敷が失敗しているのだと考えた。お化け屋敷は怖い場所で、笑い声が上がるような場所ではない。私の演出不足のために、お客様は笑い声を上げているのだ、と。
そう考えた私は、もっと怖いお化け屋敷を作らないといけない、と思うようになった。お客様が悲鳴を上げ続け、出口から出ても泣き崩れ、家に帰ってから悪夢にうなされるような、そんなお化け屋敷を作らなければならないのだ、と考えたのである。もっと怖く、もっと救いのない演出を。私は、そんなことを必死に考えていた。
ところが、その一方で、笑い声を上げるお客様の様子を見て、私はなぜか嫌な気持ちになっていないことにも気づいていた。むしろ、心のどこかでその様子を喜んでいるのだ。
頭ではもっと怖がらせなくてはならない、と思いながら、心のどこかでお客様の笑顔をうれしがっている自分がいる。そのことが、不思議な思いとなって胸のどこかに残り続けていた。
ある時、いつものように出口でお客様の様子を見ていた私は、あることに思い至ったのである。
お客様は、お化け屋敷に怖がりに来ているだけではない。お化け屋敷で恐怖を体験し、それから解放された時に、普通ではあまり経験したことのない楽しさや喜びの感情を抱く。お化け屋敷に入る人は、実はそのことを望んでやってきているのではないだろうか。出口で笑い声を上げるのは、人間のそういった特殊な心理メカニズムによるものなのだ。
このことは、私にとって大きな驚きだった。
同時に、私は納得したのだ。私は怖がらせたいのではない、楽しませたいのだ、と。
ホラーがそれほど好きではない私が、お化け屋敷を作り続けてきた理由は、ここにあるのだ。
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