相談を受けるのが苦手だ
- 阿部 泰尚さん/探偵
- T.I.U.総合探偵社、NPO法人ユース・ガーディアン代表。『いじめと探偵』(幻冬舎新書)、『いじめを本気でなくすには』(角川書店)等の著書他、漫画『いじめ探偵』(小学館)を原案。『世界一受けたい授業』(NTV)等にも出演し、いじめの実態について発信している。
私は人の相談を受けるのが苦手だ。私の本業は「探偵」である。最近では、こどものいじめ問題に介入するから「いじめ探偵」と呼ばれるようにもなっているが、無償で対応しているから、一般の探偵調査をするのが本来の私の姿だ。
探偵というのは、世間的には調査をする姿が小説や映画などで描かれているから、調査現場で人を追ったりするのが仕事だと思われているが、実際は地味に目立たず待つことの方が圧倒的に多いし、そもそも人の相談を受けて、どう調査をしたら良いかを考えるというのも仕事である。だから、「相談」を受けるのは仕事でもあるのだ。
仕事だからこそ、必要な情報をより深く聴いていくし、日々相談を聴くことになる。さらに調べるのが仕事だから、普通は見ない人の裏側を知ることになる。だから、相談を20年以上も受けて、調べていれば、大まかな状況を聴くだけで、まるで見てきたように、その相談の先が分かってきてしまう。だから、相談を受けて答えていくと感謝されることも多いし、仕事の上での成約をよく得ることになる。
では、相談を受けるのは「苦手」ではないではないかと思うだろう。しかし、私の中では、逃げ出したくなる時があるほど「苦手」なことなのだ。
仕事で相談を受けるのだから、論理的に整理して相談を聴くのは、普通のことなのだ。ただ、私はそれだけではなく、人と人である以上、必ず心で聴くようにしている。いや、心で深く聴いてしまうのだ。楽しい話や物語をみると、楽しい気持ちになるだろう。それと同じように、私が受ける相談は、つらい話や悲しい話しかない。だから、私が真剣に相談を受けるほど、私の心はそういう感情でいっぱいになってしまうのだ。
だから、相談を受ければ受けるほど、感謝されることも増えるけど、私はものすごく疲弊してしまうのだ。
きっと誰かに相談して、自分も楽になればいいと思うかもしれないが、私には守秘義務があって、相談の内容を誰かに話すことはできない。
一度だけ、相談を受け続けたために、私の心が潰れ、何も感じなくなってしまった時期があった。たぶん私がこんなにも疲弊していたとは周囲は知らないだろう。毎日吐きながら相談を受けていたが、必死に笑顔を作っていた。自然に笑えるようになったのは、相談の数や時間を制限してもらって、ビジネスパートナーや部下に相談を任せてから1年ほど経ってからであった。そして、私はその時期に、「私は相談を受けるのが苦手なんだ」と意識するようになった。実は、それまで「得意だ」と思っていたのだ。
相談は苦手だと思うようになって、ずいぶん心が軽くなった。だから、私は人の相談を受けるのが苦手だ。
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