連載コーナー
本音のエッセイ

2022年1月掲載

欲深くゴロゴロしていたい私

犬山 紙子さん/イラストエッセイスト

犬山 紙子さん/イラストエッセイスト
2011年、ブログ本でデビュー。2017年、児童虐待問題に声を上げるタレントチームを立ち上げ、社会的養護を必要とする子どもたちに支援を届けるプログラム「こどもギフト」メンバーとしても活動中。

先日これを書いているパソコンにラーメンの汁をこぼしてしまった。慌てて拭き取り、2日間乾かし、恐る恐る今立ち上げてみたというところです。水ならまだしも、ラーメンのような塩分を含む汁をこぼしたので復活は無理だろう、そう思っていたので今、原稿を書けることに感動しています。でもパソコンからちょっとラーメンの匂いがする。…とんこつラーメンじゃなくて良かった。

私の毎日は大体こんな感じで、どこか間抜けであります。私は今、夫と4歳の娘と3人暮らし。仕事に育児にとバタバタしております。娘はまだ小さいので「ママが思っていたドアと違うドアから出てきた!」とかいう理不尽な理由で泣いたりもします。テレパシー能力でもないかぎり泣かれないのは無理だわ…。

こういった日々が愛おしく、昔は「誰かに認められたい」という気持ちで暮らしていたのが、今は「このなんてことない日常が続くと良いなあ」に変わってきました。いや、正直まだ誰かに認められたいって気持ちもあります。人間そんな簡単に解脱できないものですねえ。

日常。私たちは一日一日を積み重ねて生きているわけですが、この「なんてことない」日常は全ての人にとって当たり前ではないことを痛感しています。

例えば、以前私が不安症になった時は日常から色が消えて、日常は「ただただ苦しい時間」に変化してしまいました。「最悪な事態になっているのでは」と動悸とともに起きて、声を出すのすら本当に苦しい。大好きな人と話すのも苦しい。

病院に行って、安心安全な場所で休んで、人に頼って回復し、今のこの日常があるわけですが、今私が安心して健康に暮らしているこの瞬間、苦しんでいる人もいるわけです。

中でも私が苦しいのは児童虐待です。虐待に苦しむ子どもたちのニュースは、つらすぎてずっと目をそらしていました。「向き合ったら自分もつらいし、自分一人の力じゃどうにもできない」と。でも、このちっぽけと断ずる自分一人の力すら、子どもたちは大人のように持っていないのです。なのに、大人の自分がそんなことを言ってるのは逃げるための口実でした。

2018年に反省し、微々たる力ですが何かできることをやろう、と思い動くようになりました。

同じ気持ちである友人たちと「#こどものいのちはこどものもの」を立ち上げ、子どもを支援する団体さんに取材して、現状をたくさんの人に届ける活動をしています。たくさんの方が「子どもを守りたい」という同じ気持ちでした。そこに老若男女、子どもの有無は関係ありません。

この活動も私の日常です。「全ての子どもが、安心して遊び、眠り、学び、そしてお腹いっぱいご飯が食べられて、尊厳が守られる社会にしたい」という祈りは綺麗事でもなんでもなく、日常の中にあるのです。私はとても褒められた人間じゃあありません。欲深く、誰かを悪く思ったり、できればずっとゴロゴロしてたい、そんな人なのですが、そんな人の日常にもこういった祈りはある。

というわけで今日も今日とて、日常を積み重ねるのです。

(無断転載禁ず)

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