「寄席」はライブ? 配信も面白い!
- 春風亭 昇吉さん/落語家
- 東京大学経済学部卒業。落語研究会に入部し2006年に第3回全日本学生落語選手権で優勝。東京大学総長大賞受賞。07年大学卒業直後に春風亭昇太に入門、11年二つ目昇進、21年5月に真打昇進が決定。気象予報士取得。近著に『マンガでわかる落語』。
落語の始まりは、人間が言語を使い始めた頃にさかのぼると思われる。文献として残っているのが、「物語の出で来はじめの祖(おや)」と言われる『竹取物語』。「燕の産んだ子安貝」を取りに行って「かひ(甲斐・貝)なし」とか、「士(つわもの)らを大勢連れて、不死薬を焼きに山へ登った」ことから、その山を「ふじの山」と言うようになったとか、オチが付いている。
また噺家(はなしか)(落語家)は、室町時代の説法僧や御伽衆(おとぎしゅう)が源流になっていると言われている。
江戸時代中期の天明・寛政期の狂歌狂文の盛行とともに、料理屋の2階などで小噺を披露する会が行われるようになった。その中から出た初代三笑亭可楽が1798年に下谷稲荷神社で日本で初めての寄席を開いた。
明治に入ると、三遊亭圓朝(えんちょう)の速記出版や新聞連載が始まった。また関東大震災の発生から情報伝達メディアとしてラジオの必要性が認識されるようになり、1925年日本初のラジオ放送が開始、1931年に初の寄席中継が行われた。
1953年にはテレビ放送が開始、1966年に『笑点』が始まる。放送メディアのみならず、レコード、カセットテープ、CDなどを通じて、落語は全国で享受されるようになった。
2020年、コロナ禍で寄席は一時休止を余儀なくされた。以前からWEB上の配信落語はあったが、YouTubeやZOOMなど動画サービスの普及や、投げ銭やコメントでの参加といった文化、5Gの浸透に向けての通信システムの進展から、落語演芸のICTは急激に進んだ。中には、ゲームの『あつまれ どうぶつの森』の中の仮想空間で寄席を開く芸人も現れた。
私も先日、現実の寄席を配信してみたが、実感としては、面白かった!普段、客席に来られない潜在的なお客さまから反応があったからだ。ライブの良さと配信の問題点は、落語家も聴衆もともによくわかっている。しかし、変容しなければならないと思う。VRや、たとえば聴衆の息遣いが話者に届く技術といったような、臨場感や没入感を高める技術の進歩があるかもしれない。環境の変化に適応できなければ、生き残れない。
以上、メディアという側面から落語史を概観した。本、辻噺、寄席、速記・新聞連載、ラジオ、テレビ、レコード、CD。そしていま、オンライン落語会。
噺、噺家、メディアの3つがそろって寄席空間は成立する。3つの要素は、時代の移り変わりにつれて、互いに呼応しながら変化する。
落語には、日本語を軸とした、喜怒哀楽、情念、ユーモア、慣習的心理、人間関係の文法などが織り込まれ、歴史の中で蓄積され、洗練され、アップデートされている。
WITHコロナの今、ぜひ、新しい「寄席」にいらしてくださいませ。
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