連載コーナー
本音のエッセイ

2020年3月掲載

軍が真相を隠す民間機の撃墜

杉江 弘さん/航空評論家、元日本航空機長

杉江 弘さん/航空評論家、元日本航空機長
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、日本航空入社。ボーイング747の飛行時間は約14,000時間を記録し、ボーイング社より表彰を受ける。現在は著書の出版、新聞、テレビ等メディアに出演する他、航空問題(最近ではLCCの安全性)について講演、啓蒙活動を行っている。

本年1月8日、米国とイランとの紛争の中でウクライナ機がイラン軍のミサイルで撃墜され乗客乗員176名全員が死亡するという悲劇が起こりました。イラン政府は当初、当該機はエンジントラブルで空港に引き返すところであったと虚偽の説明をしていましたが3日後には軍が誤って攻撃をしたと認めました。今日の航空界ではフライトレーダー24という民間のサイトで民間機の飛行情報をだれでも詳しく見られることや撃墜時の映像もあったことから真相を隠すことが困難であると判断したからです。以前ならブラックボックスの解析まで原因は分からないと逃げることができたのです。

軍が民間機を誤射したのは米軍もありました。1988年のイラン・イラク戦争で米国巡洋艦がイランの空港を離陸したばかりのエアバス機をミサイルで攻撃し、290人が亡くなりました。この時米国は当該機が時速600キロを超えて向かってきたので戦闘機と思ったと発表しましたがエアバスは低高度でそんな速度は出せずこれも虚偽の説明でした。最終的に米国は事実を認め補償に応じました。

さらに、2014年の7月にはウクライナ上空でマレーシア航空機がロシア製のミサイルで撃墜される事件が起きましたが、今も双方が責任をなすりあっています。

このように、軍は真相を隠したり責任を相手に押し付けるのが当たり前になっています。

では、このような紛争地域での民間機の被害を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。

解決方法の第一として、軍のレーダーにも民間機の便名表示が出るようにする、民間航空の管制官と連絡体制を確立して情報を共有するなどのことはすぐにでもできるはずです。

次に、国際社会が紛争地域に民間機を飛ばせない仕組みを作ることです。残念ながら、国連の民間航空機関のICAOは各国の航空会社と行政当局に紛争地域での危険情報は出すのですが、飛行禁止措置までは取れないのが現実で、これを改める必要があります。

先のウクライナ上空での事件で、ウクライナ政府はミサイルの届かない高度1万メートル以上は安全といって領空通過を認めていました。しかし、結果は高度2万メートルまで届くブークと呼ばれるロシア製のミサイルで撃墜されたのです。このミサイルはウクライナ軍も持っていて、危険性を分かっていたはずでした。それでも領空を安全として飛行を認めていた理由は、航空会社から入る領空通過料を失いたくないからです。これまで世界で紛争状態にもかかわらず、自国の領空を危険として民間航空機の飛行を禁止した例はありません。

最後に、航空会社も危険地帯での飛行を行わずルートを迂回するなど、安全第一で運航することが求められるのはいうまでもありません。 

(無断転載禁ず)

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