連載コーナー
本音のエッセイ

2019年8月掲載

理解したと想った瞬間、誤解に変わる

塚越 友子さん/心理カウンセラー

塚越 友子さん/心理カウンセラー
東京中央カウンセリング代表。男女問わず人間関係の悩みを改善するカウンセリングに定評がある。著書は『銀座No.1ホステスの心をつかむ話し方』『銀座No.1ホステスの上品な好かれ方』(だいわ文庫)、『モテる男の即効フレーズ』(講談社α文庫)など多数。

先日、ある雑誌で「共感されるコツ」という取材を受けたことにはじまる違和感について書きたいと思う。それは「アナ雪」が流行ったときの「ありのまま」という言葉に対する強烈な拒否感にも似た、違和感。今回のターゲットは「共感」という言葉である。

私はカウンセラーという仕事をしている。親が子どもの気持ちを理解するメカニズムについての研究もしている。

私の共感という言葉の定義は、おもにカール・ロジャーズによる臨床心理学的定義だ。つまり、相手と自分は違う人間だと区別をつけた上で、自分の信念や価値観はワキにおいておき、相手の感情を感じ、理解し、共有することである。

はじめの違和感に戻ろう。共感とは「相手に対して自分が反応すること」であり、共感されるように振る舞って得るものではない。この雑誌にかぎらず、共感という言葉が最近安易に使われている。結局、世間で使われている共感は、自分と同じだから反応する「同じ!わかる!ささる!」だ。自分の気持ちが代弁されているという意味で反応しているのではないだろうか。

さらに、社会心理学的視点を追加すると、次の2つの場合は、共感とはいえない。

1つ目は、相手の心の中に何が起こるかを知的に理解しているだけの場合。例えば、いじめをする子は、相手がこれを言われたら嫌だろうということを狙ってからかい、仲間はずれにする。これは、いじめることにより、相手の心に何が起きるかを知的に理解できるからこそ行えること。だから知的に分かることは共感には含まれない。ちなみに知的に理解できるだけでは、どれだけ相手の心が傷つくかという理解に至らないので、いじめはエスカレートしてしまう。

2つ目は、相手の状況を知り、自分も同じような感情状態になっても、その関心が自分にしか向かわない場合である。例えば、友人が彼氏に浮気されて落ち込んでいる気持ちを知り、自分も彼に浮気されたらどうしようと落ち込むという状態だ。同じような感情状態になってはいるが、それは友人の感情ではなく、自分の感情に注目している状態であり、共感ではない。

もしも、皆の共感力がカール・ロジャーズ的意味で発揮されたとしたら、どんな投稿でも皆が共感してくれるという状況がつくられるでしょう(皮肉である)。

本来、共感とは簡単ではない。多くのカウンセラーが大切にしている言葉で締めくくろう。相手のことを「理解したと想った瞬間、誤解に変わる」。 

(無断転載禁ず)

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