連載コーナー
本音のエッセイ

2019年5月掲載

発達障害ブームについて、思うこと

水無田 気流さん/詩人・社会学者

水無田 気流さん/詩人・社会学者
1970年生まれ。詩集に中原中也賞受賞『音速平和』(思潮社)、晩翠賞受賞『Z境』(思潮社)。評論に、『無頼化した女たち』(亜紀書房)、『シングルマザーの貧困』(光文社新書)、『「居場所」のない男、「時間」がない女』(日本経済新聞出版社)など。

昨今、発達障害がブームである。関連書籍や特集番組などもよく目にするようになった。正直、まったく人ごとではない。というのも、該当事項であるコミュニケーション関連の問題(「空気」を読むのが苦手、過度に集中すると周囲が見えなくなる等)は、かなりの部分私にも当てはまるからだ。

だが、私見ではそんな人間は、学術・文筆業界では、珍しくもない。むしろ、得意分野に関しては空気を読まず語り続けたり、特定のこだわりが強く、一般的なコミュニケーションに齟齬(そご)をきたしかねないような人だらけのように見える(ごめんなさい)。

いち社会学者として、発達障害はもっと社会学的見地からの精査が必要な分野であるように思う。というのも、その「障害」の内実のほとんどが、社会生活におけるコミュニケーション関係の齟齬を指しているように見えるからだ。何が「普通」のコミュニケーションなのかを問わず、「障害」の言葉が一人歩きしているように見えるのも、気がかりである。

さて、親の因果が子に報い、ではないが、私の息子もやはり集団行動が苦手で、低学年のころは、毎日のように先生に叱られ、そしてたびたび発達障害の検査を勧められた。そして何度受けても、「正常・個性の範疇(はんちゅう)」であった。

小学2年生のある日、息子は「今日も先生に怒られた」が、その怒られ方がとても納得がいかなかったと、ふくれ面で帰宅してきた。「僕は先生の言っていることをちゃんと聞いて、僕のどこが間違っていて、先生の言っていることのどこが正当なのかをきちんと確認して、それから謝ろうと思って、一生懸命お話を聞いていたら、『黙ってないで、早く謝りなさい!』って怒られたんだよ」と。そしてさらに、「何も考えないですぐに謝るっていうのは、謝る振りをしているだけで、ちゃんと謝ったことにならないんじゃないの?」と言うのである。

参ってしまった。私はたいていのことはあまりこだわらず、ずぼらで適当な子育てをしている自覚はあるのだが、ただ一点。「自分の頭で考えて、判断すること」。これだけは、いつも子どもに言い聞かせてきたつもりだったからだ。だがそれが、学校不適応児を生んでしまったのか…。

小学5年生になった今、息子はだいぶ学校には馴染んだようで、先生には「落ち着きましたね」と言われる。良かった良かった…と思っていたら、いちいち先生につっかからなくなったのは、「結局何を言っても、学校では先生が正しいことが前提になっているのと、何が正しいのかを決定するのが、権力だということが分かったからだよ!」と、息子はにこにこしながら言うのである。

おまえはミシェル・フーコーか…とつっこみを入れたくなったが、息子の将来を心配しつつ、彼の今後の人生が幸多からんことを、祈らずにはいられない。

(無断転載禁ず)

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