連載コーナー
本音のエッセイ

2019年1月掲載

「8050問題」から見えるもの

黒川 祥子さん/ノンフィクション作家

黒川 祥子さん/ノンフィクション作家
福島県生まれ。家族・子ども・女性の問題を主に執筆活動を行う。2013年『誕生日を知らない女の子 虐待〜その後の子どもたち』で第11回開高健ノンフィクション賞受賞。『「心の除染」という虚構』『県立!再チャレンジ高校』『PTA不要論』などの近著がある。

「8050問題」、あるいは「7040問題」というものをご存じだろうか。

80代の親と50代のひきこもりの子ども、70代の親と40代のひきこもりの子どもという、ひきこもりの高齢化問題を表す言葉だ。

2018年秋には内閣府が初の実態調査を行うなど、ここにきて深刻な社会問題として意識されるようになってきている。

この間、「8050問題」の取材を続けているのだが、戦後の家族が行き着いた一つの象徴を見る思いに駆られている。

1998年、精神科医の斎藤環氏が『社会的ひきこもり』を著し、ひきこもりは社会に認知された。それから20年、何ら有効な手立てが取られず、そのままひきこもった結果の高齢化という側面もあるが、ある意味、戦後、「良き家族」とされたものの内実が、辿り着いた末路だと思えてならない。

高度経済成長期、今までこの国にはなかった新たな家族のモデルができ、それが主流となった。「モーレツ・サラリーマン」としてバリバリ働く夫と、家事や育児に専念する専業主婦の妻がつくる核家族。基本、子どもは2人。保守層からいまだに「良き家族」とされる、国が想定する「標準家族」だ。

8050の当事者に話を聞いたが、共通しているのが強すぎる父の存在だった。一流大学・一流企業という一つの価値観を押し付け、子どもに多様な選択肢を許容しない。ゆえにその道からこぼれ落ちた時、社会から撤退するしか道はなくなる。父も夫に従うだけの母も、子どもの弱さを責め続けるため、家族からもひきこもらざるを得ない。

あるいは母が息子を溺愛し、幼い頃からお金をあげることで子どもを喜ばせてきた結果、働かずに金の無心を続けたまま50代となったケースもある。

ひきこもりの場合、重要なのは外部の力を借りることだ。家族との関係でひきこもっている以上、家族での解決は難しい。しかし、「80問題」の親は、世間体や体面を気にして子どものひきこもりをひた隠し、なまじ財力があるばかりに50代まで養えてしまう。しかし自分が高齢になり病気や年金生活で困窮して初めて、外部に助けを求めた結果、「8050問題」として今、社会に顕在化したのだ。子どもの20年より、自分たちの都合が優先された結果、こうした事態を招いたわけだ。

50代ひきこもりは、親の都合により人生を食いつぶされた存在なのか。世帯分離をし生活保護を取ってでも、親と離れた人生をスタートさせてほしいと思うし、ここから得る現役子育て世代への教訓は、「私たち親は、子どもの立場に立って考えているのだろうか」ということだろうか。

(無断転載禁ず)

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