連載コーナー
本音のエッセイ

2018年6月掲載

心は生きていた

福岡 政行さん/政治学者

福岡 政行さん/政治学者
東北福祉大学特任教授。現場に足を運び、生の情報を収集分析することによって精度の高い選挙・政局を予想し、提言を行う。また、阪神・淡路大震災をはじめ新潟中越地震、東日本大震災被災者、カンボジアの子どもたちへの支援活動をゼミ学生と共に積極的に行っている。

北朝鮮のピョンヤンに、コメとチョコレートを持って、ボランティアに入った。

2000年の夏である。38度線の近くの小さな村に行った。持ってきたコメとチョコレートを村長(?)さんたちに渡した。少し遅れて来た5~6歳の女の子が手を出す。ゼミ生が、半分に割ったチョコレートを渡した。食べようとしない。通訳に「どうして食べないのー」と聞いてもらった。少女は「妹にあげるの…」と小さな声で(ハングルで)答えた。

困ったゼミ生は、私の顔を見る。私が「残っていないのかー」と聞く。学生は「ありませんが、車に先生のおやつのチョコレートが2枚あります」と答える。そして「取ってきます…」と言って、彼は車に走って行った。2枚のチョコレートを持って、全力で彼は戻って来た。

そして少女に渡した。少女はうれしそうに、うなずいて走って帰って行った。通訳の人も北朝鮮の関係者も、うれしそうに笑った。いい風景だった。

車に乗って、ピョンヤンに戻る時間となった。私が「3時のオヤツ!オレのチョコレートはどこだ!」と学生に振り向いて聞いた。彼は「もう1枚もありません」とニコッと笑って答えた。私が「オレのないのか、バカヤロー」と怒鳴った(笑)。

あの少女は、遠くから妹(?)と2人で、私たちの車が見えなくなるまで、大きく手を振っていた。

ゼミ生たちも、窓から手を振った。「またくるよ…」と。

それからしばらくして、カンボジアのプノンペンで、小学校づくりに参加した。

休憩時間は、みんなでお菓子とコーラを飲んだ。子どもたちも一緒だ。そのうち、1人の学生が男の子と、相撲を取りはじめた。学生が、その子を投げ飛ばした(やさしく)。突然、遠くから1人の女の子が走ってきて、その学生を、小さな手でたたく、泣き叫びながら…。妹なのか、倒された男の子は、立ち上がって女の子に何か説明している。女の子の顔は、笑い顔になった。「ふざけて遊んでいたんだよー」ということがわかったのか。

みんなも拍手していた。ゼミOBが、男の子を投げたゼミ生を投げ倒した。その子も笑っている。ポル・ポトの支配で、虐殺が行われ親兄弟の関係も断たれた。でも、人の心は変えられない。何かホッとした。その日の夜の反省会は、アンコールワットビールを飲んだ。

北朝鮮でも、プノンペンでも、家族の愛は不変だった。「平和の原点ですね」とOB。

みんなが、うなずいていた。

(無断転載禁ず)

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