連載コーナー
本音のエッセイ

2017年12月掲載

忖度と平目

新村 恭さん/フリーエディター

新村 恭さん/フリーエディター
1947年京都市生まれ、名古屋市育ち。東京都立大学大学院史学専攻修士課程修了。岩波書店等で出版のしごとに携わる。現在、新村出記念財団嘱託、フリーエディター。著書に祖父の伝記『広辞苑はなぜ生まれたか:新村出の生きた軌跡』(世界思想社)。

「忖度(そんたく)」という語は、難読・難解でこれまでほとんど使われることがなかったのにもかかわらず、かなり脚光を浴びた。加計学園騒動がもとであるのは周知のことである。おや?何のことだろうという珍しさもあったろうか。

しかし、忖も度も、おしはかる意味の字で、悪いことをするニュアンスは全くない。忖の字は立心偏(りっしんべん)に寸で、ちょっと心にとめる感じがでている。忖度は人の心をおしはかる意が強い。それも、特定の私人の心情にたいして使われるのが一般的だ。

安倍首相の心を忖度したということであろうか。しかし、公人中の公人である首相にたいする語としてはなじまない。この語は、政治・行政とは異質であると言ってよいだろう。それが出てくること自体、日本の政治の曖昧模糊(あいまいもこ)さを表しているのかもしれない。

森友学園もあわせて、問題は、首相の息がかかっていることを利用して、本来できないこと、あるいはたいへん難しいことを実現しようとしたことにあるのは明確だ。今後の解明を俟(ま)ちたい。

私は、漠然とだが、上記の拡張された「忖度」に、「平目」が加味されているのが問題だと思っている。平目は言うまでもなく魚の名だが、上ばかり見ている人にたいしても使われている。上ばかり見て、下を見ない、現場を見ない人である。「あいつは平目だ」などと言われる。この意味は、申し訳ないが『広辞苑』(第6版)にも載っていないのだが。

とくに、この傾向が公僕、おおやけのしもべたるべき、公務員に感じられるのである。森友事件では、籠池氏に問題があるのは明らかだが、それだけで済ませてよいのか、大阪府に問題はないのか…と思う。

私企業、政治家をふくめた私人は、利益のため私欲のため、不正をすることがある。例は枚挙に遑(いとま)がない。公務員が平目では困るのである。公務員は、決してトップでも高い給与である必要はないと思うが、安定した待遇で、十分な人数が必要だと思う。必要なチェックをし、公正さを保ち、住民の生活を守るためにである。みな、大局観をもち、下を「忖度」する良吏になってほしい。

(無断転載禁ず)

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